嘘つきな君






「どうぞ」

「ありがとうございます」


カチャっと小さく音を立てて、ティーカップを机の上に置く。

すると、姿勢正しく椅子に座っていた男性が小さく会釈した。


――あの後。

彼らが用意したであろう車に乗り込んで、会社に戻ってきた私達。

そして、どういう訳かは分からないけど、あの美女と、この無愛想な男も一緒についてきた。


そして会社に着くや否や、常務とあの美女は常務室に入ったっきり出てこない。

気になって仕方ないけど、きっと仕事関係の事だから口出しできない。

思わず出てしまいそうな大きな溜息を飲み込んで、踵を返してこの場から立ち去ろうとした。

その時――。


「どうしてここにいるんだ? って顔してますね」


聞こえたのは、酷く冷たい声。

勢いよく振り返ると、相変わらず姿勢正しく座りながら私をじっと見つめる男性がいた。


「申し遅れました、私、柳瀬(やなせ)と申します」

「あ、えっと……芹沢と申します」


すっと音もなく立ち上がって、名刺を胸元から取り出した男性。

慌てて私も名刺を取り出すけど、なんだかあまりにも落ち着いた彼の佇まいに、しどろもどろしてしまう。




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