嘘つきな君
居心地の悪さを感じて、受け取った名刺に目もくれず、踵を返そうとする。

それでも、目の前の男性は逃がしてはくれなかった。


「秘書たるもの、感情をあまり顔に出してはいけませんよ。芹沢さん」


私の名刺に視線を落とした後、ゆっくりと視線を持ち上げた彼――柳瀬さん。

まるで鷹の様に鋭い、切れ長の瞳が私を射る。


「す、すいません」

「何か聞きたい事があるんじゃないです?」

「え?」

「そう顔に書いてある」

「――」

「私がお答えできる範囲であれば、お力になります」


どこか業務的な声色でそう言って、再び椅子に腰かけた柳瀬さん。

チラリと隣にある常務室に視線を向けた所を見ると、私の頭の中なんて全部お見通しなんだと思う。


それを感じ取って躊躇したものの、ゆっくりと彼の前に腰かける。

そんな私の姿を、どこか満足そうに見つめる瞳。


「あの……」

「なんでしょう」

「彼女は……常務とは一体どういった関係なんでしょう?」


こんな事聞いていいのか、正直迷った。

それでも、気になって仕方ない。

胸の中の不安が今にも爆発してしまいそう。


だって、彼女と彼は、ただの『仕事関係』の人ではない。

それ以上の何かを感じる。

何故かと聞かれたら、女の勘としか言えないけど……。


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