嘘つきな君
そんな事を思っていると、柳瀬さんは優雅にティーカップを持ち上げて紅茶に口をつけた。

その仕草一つ一つが綺麗で、彼も『普通』の秘書ではないと思った。


胸の奥のモヤモヤを押し込んで、じっと柳瀬さんを見つめる。

すると、紅茶を音も無くテーブルに戻した彼が再び私に視線を向けて口を開いた。


「お嬢様は、今日までアメリカに留学されていました。それで、帰国してこちらの神谷社長にご挨拶をと思っていた時、ちょうど大輔様もシンガポールから帰国との事を聞いて、お嬢様がお会いになりたいと」

「お嬢様……」

「もともと我が社は、神谷ホールディングスとは古いお付き合いでして。なので、大輔様とも」


どこか意味深に言った彼の言葉に、思わず瞳が揺れる。

フラッシュバックの様に、様々な言葉が蘇る。


まさか――…。


一瞬にして心臓は早鐘を打ち始める。

嫌な予感がして、体が震える。


違っていてほしい。

お願いだから、違っていてほしい。


視線も合わせる事ができなくなった私に、立ち上がった柳瀬さんが近づいてくる。

コツコツと革靴の音を鳴らして、私の座る椅子の隣で立ち止まった。

そして、まるで秘密の会話でもするように、体を屈めた柳瀬さんが小さな声で言った。


「お噂は聞いております。芹沢様」

「――」

「あの大輔様に、愛を教えて差し上げた方だと」

「なっ――!!」


その言葉に、目を見開く。

ビリビリと体に電流が走る。


どうして――…私達の事、知って?


言葉を無くして、ただただ私を見下ろす柳瀬さんを見つめる。

すると、片方の口端を上げて柳瀬さんは瞳を細めた。

そして、宣言するように口を開いた。



「彼女は、園部グループご令嬢。園部 桃香様だ」

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