嘘つきな君

瞬きも、息も忘れて、ただ彼を見上げる。

頭の中のサイレンは、もう鳴っていない。

驚くほど、静かだ。


そんな世界の端で、誰かが小さく呟いた。

『タイムリミットが、近い――』


茫然とする私を見て、ふっと微かに息の下で笑った柳瀬さん。

コツコツと革靴を鳴らしながら、再び私の前に腰を下ろした。

そして、酷く冷めた目で私を見つめた。


「ならば、ご存知でしょう。2人の行く末は」


行く末は――。


その言葉に、涙が出そうになる。

そんな事、分かっている。

ずっとずっと覚悟してきた事だから。


どれだけ愛し合っても。

どれだけ想い合っても。

どれだけ未来を望んでも。

この手を離さなければ、いけないって――。


「お返し頂く」


だから、この言葉にも頷かなければいけない。

彼も、覚悟している事だから。

私も、覚悟しなければいけない。


だけど、どうしてかな。

体がピクリとも動かない。

頷く事すらできない。


「いずれ訪れる、その時に」



ねぇ。

私達の恋は、あとどれくらいなのかな。

あとどれくらい、一緒にいられる?

一緒に笑っていられる?

隣にいれる?

愛し合って、いられる――?

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