嘘つきな君
磨き上げられた大理石の床を、ソロリソロリと音を立てずに歩いていく。
視線を横にずらせば、なんとも高級そうな調度品が並べられていた。
「これ……本物の金だよね……きっと」
普通に廊下の端に置かれた、置物。
あまりに何の躊躇いもなく置かれているもんだから、思わず二度見してしまった。
「すっご~い。美術館みたい」
真っ直ぐに社長室まで続く廊下を、キョロキョロしながら歩く。
それでも、いつの間にか大きな扉の前まで辿り着いている事に気づいて、我に返った。
イカンイカン。
こんな事してる場合じゃなかった。
身を潜めていた緊張感を一気に引き出して、身なりを整える。
何度も大きく息を吸ったり吐いたりして、覚悟を決めた。
よし。
心の中でそう呟いて、ノックをしようと手を上げた。
その時――。
「話が違いますっ」
突然聞こえた声に、体に電流が走ったのかと思った。
持ち上げた手が扉に当たる寸前で止まる。
息をするのも忘れて、その場に石の様に固まる。
聞き間違いではない。
私が間違うわけない。
いつぶりだろう。
この声を聞いたのは。
もはや、懐かしくも感じる。
帰ってきてたんだ――。
「常務……」
扉の向こうから聞こえたのは、彼の声だった。