嘘つきな君
思わず息を殺して、耳を澄ます。
彼の声を、もっと聞きたくて。
ピッタリと扉に耳をつけて、その向こう側から聞こえる声に全神経を集中させる。
ドクドクと心臓の音が煩い。
一気に体中の神経が集中する。
「手は出さないと約束したはずですっ」
音を無くした世界に、ただ一つの声が響く。
扉の向こうから、微かに聞こえる彼の声。
珍しく、声を荒げている。
「何を勘違いしている。これは悪い話じゃない」
そんな時、聞こえた低い心臓を震わせる様な声。
誰かは分からないけど、きっと彼より立場は上の人。
だったら……もしかして――神谷社長?
ドクドクと心臓が鳴る。
何を言い争っているの?
何の話をしているの?
聞き耳を立てながら、そんな事を思う。
こんな事をして、誰かに見つかったらただじゃ済まない。
それでも、根が張ったようにここから動けない。
「決めるのは、私じゃない」
「しかしっ」
「そんな事より、お前には他にする事があるだろう。もう昔の事に係わるな」
常務の声を遮る様に、厳しい声が鳴る。
有無を言わせない様な、そんな声が。
この声の主は間違いなく、社長だ。
彼にこんな事言えるのは、立場上社長しかいない。
嫌な汗が掌に広がる。
だけど、プツリと途切れた会話に不思議に思って更に耳をそばだてた。
その時。
ガチャ――。
突然目の前の扉が、何の前触れもなく開いた。
あまりにも突然の事で、ビクリと体が大きく飛び上がる。
そして、反射的に体を扉から離した。
それでも。
「――っ」
目の前に現れた人を見て、言葉を無くす。
躊躇う事なく、瞳が大きく揺れた。
そして、目の前の人も私を見て、その黒目がちな瞳を大きく揺らした。
互いに驚きすぎて、言葉を失う。
それでも、心の中が甘い痛みを生む。
会いたかったんだと、察するのは容易い。
堪らなく会いたかったんだと――。
思わず泣きそうになって、ぐっと瞳に力を入れる。
そんな私を見下ろすのは、懐かしい瞳。
「常務……」
ただ、会いたかったんだ。
あなたに――。
彼の声を、もっと聞きたくて。
ピッタリと扉に耳をつけて、その向こう側から聞こえる声に全神経を集中させる。
ドクドクと心臓の音が煩い。
一気に体中の神経が集中する。
「手は出さないと約束したはずですっ」
音を無くした世界に、ただ一つの声が響く。
扉の向こうから、微かに聞こえる彼の声。
珍しく、声を荒げている。
「何を勘違いしている。これは悪い話じゃない」
そんな時、聞こえた低い心臓を震わせる様な声。
誰かは分からないけど、きっと彼より立場は上の人。
だったら……もしかして――神谷社長?
ドクドクと心臓が鳴る。
何を言い争っているの?
何の話をしているの?
聞き耳を立てながら、そんな事を思う。
こんな事をして、誰かに見つかったらただじゃ済まない。
それでも、根が張ったようにここから動けない。
「決めるのは、私じゃない」
「しかしっ」
「そんな事より、お前には他にする事があるだろう。もう昔の事に係わるな」
常務の声を遮る様に、厳しい声が鳴る。
有無を言わせない様な、そんな声が。
この声の主は間違いなく、社長だ。
彼にこんな事言えるのは、立場上社長しかいない。
嫌な汗が掌に広がる。
だけど、プツリと途切れた会話に不思議に思って更に耳をそばだてた。
その時。
ガチャ――。
突然目の前の扉が、何の前触れもなく開いた。
あまりにも突然の事で、ビクリと体が大きく飛び上がる。
そして、反射的に体を扉から離した。
それでも。
「――っ」
目の前に現れた人を見て、言葉を無くす。
躊躇う事なく、瞳が大きく揺れた。
そして、目の前の人も私を見て、その黒目がちな瞳を大きく揺らした。
互いに驚きすぎて、言葉を失う。
それでも、心の中が甘い痛みを生む。
会いたかったんだと、察するのは容易い。
堪らなく会いたかったんだと――。
思わず泣きそうになって、ぐっと瞳に力を入れる。
そんな私を見下ろすのは、懐かしい瞳。
「常務……」
ただ、会いたかったんだ。
あなたに――。