嘘つきな君
時が止まる。
ただ驚き、互いに見つめ合う。
それでも。
「――っ」
ふっと躊躇いもなく下げられた常務の視線。
その瞬間、心に冷たい槍が刺さったように苦しくなる。
何か言葉を交わしたいのに、固まってしまった体と思考回路は動いてくれない。
そんな私を置いて、常務は表情を無くした顔で、何も言わずに私の横を通り過ぎていった。
一切私を見ないで、真っ直ぐに。
まるで私の存在を消したかのように、何も言わず、何も見ずに。
遠くなっていく広い背中を、ただ茫然と見つめる。
ぽっかりと心に穴が開いて、何も考えられなくなる。
そして、彼はエレベーターに乗って行ってしまった。
立ち尽くす私を、置いて。
「なに……期待してるんだろ」
誰もいなくなった空間を見つめて、自嘲気に笑いながら呟く。
話しかけてくれるだなんて。
以前の様に話せるかもだなんて。
そんな夢物語、一瞬でも期待した自分が馬鹿だった。
心の中の感情を消す。
そっと目を閉じて、心にフィルターをかける。
静かになった世界で、クルリと体の向きを変えて再び扉の前に立つ。
そして、大きく深呼吸をして、扉をノックした。
そうだ。
私には立ち止まっている暇なんてない。
進まなきゃ。
前に。
前に。