嘘つきな君

「――…桃香さんは?」

「フランスへ飛んだ。もっともっと勉強して、立派な経営者になりたいそうだ」

「――」

「これで、園部は安泰だな」


優しく微笑んだ彼も、きっと彼女の本当の想いに気づいている。

彼女は常務の事を好いていた。

きっと、ずっとずっと以前から。

だけど、その手を離した。

『抜け殻でもいい』と言っていた、彼女が。


それは、彼の為――?

彼を愛するがため?

これが、彼女なりの彼への愛の形?


「彼女には、頭が上がらない」


小さく呟いた彼の言葉を聞いて、何度も頷く。

何度も何度も頷いて、涙を散らす。


だけど、直ぐに根底にあるものは変わらないと気づく。

彼女が『婚約者』の枠から外れたとしても、変わりは他にもいる。

そして、それが私になる事は決してない。

何も、未来は変わっていない。

そうと分かった瞬間、また悲しくなる。

結局、私とあなたの未来は変わらないのだと。


「それでも、あなたは『神谷』の為に、結婚しなきゃいけないんでしょう?」


今回は破談になってしまったけど、神谷と婚姻を結びたい企業なんて世界中にいくつもある。

結局は、時期が伸びただけ――。


どこか自嘲気に笑って、そう言う。

すると、突然顎先を持たれて、クイッと上を向かされた。

その瞬間、彼の端正な顔が目の前に現れて息を飲む。

そんな驚いて肩に力の入った私を見て、彼が不敵に笑った。


「さっきの俺の話を聞いていなかったのか?」

「え?」

「俺は、神谷の操り人形にはならない」



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