嘘つきな君
確かに先程、彼はそう言っていた。

だけど、そんな事出来るわけない。

彼が『神谷一族』に逆らうなんて事――。


「そんな事出来るわけないっ」

「どうしてそう言い切れる。第一、そんなもので会社を大きくして何になる。偽りのもので大きくしても、いずれボロが出る」

「それはっ」

「それに、そんなものに頼らなくても俺がもっと大きくしてやる」


自信気にそう言って、口端を上げた常務。

その姿に、訳が分からなくて口を閉ざす。

それでも。


「俺を見くびるな」

「――」

「俺は神谷ホールディングス、社長。神谷大輔だ」


その言葉を聞いた瞬間、世界が止まる。

言葉の意味を理解する事に必死で。


待って。

い、今、社長って言った?

常務じゃなくて、社長って?


グルグルと彼の言葉が渦巻く。

そんな私を見て、彼は満足そうに口端を上げて不敵に笑った。


「昨日、緊急の株主総会で決まった」

「う……そ」

「義父は会長になったが、経営からは外れる」

「――」

「言っただろう? 誰にも文句は言わせない」


さっきと同じ言葉を呟いて、ふっと小さく息の下で笑った彼。

そして、優しく私の髪を一度撫でた。


「俺は、もう迷わない」

「――」

「俺はお前を選ぶ」


揺らぐ事のない真っ直ぐな言葉が、胸に響く。

鍵をかけた気持ちが、ゆっくりと溶け出す。


「俺と一緒に生きてくれ」


欲しかった言葉と共に――。

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