嘘つきな君
そんな彼を思い出しながら、ポツリと呟く。


「自分が29歳になった時、大企業の重役なんてポストにおかれたら、どんな気分なんだろ」

「間違いなく、菜緒はテンパって会社を潰すね」

「失礼ねっ!!」

「でも、元々神谷ホールディングスに生まれたサラブレッドでしょ? 小さい頃から特別な教育も受けてるだろうし、そういった心構えもあるでしょ。私達みたいな凡人と違って」

「でも、菅野先輩と一緒にいた時の神谷さん、ただの29歳のどこにでもいそうな男の人だったよね」

「あんなイケメン、どこにでもいないでしょ」

「も~茶化さないで」


初めて会った場所が会社じゃないからだろうか。

未だに彼を神谷常務として見れない所がある。

――まぁ、第一印象が最悪だった事もあると思うけど。


それでも、仕事の時の姿は尊敬できるし。

素直に、かっこいいと思える自分がいる。


だけど本当に私が知りたいのは、そんな神谷大輔じゃない。

作り上げられた神谷大輔じゃなくて、本当の彼の姿を見てみたい。

会社で見ている彼や、始めて会った時の彼は、少なからずどこか無理をしているように感じたから。


「私……笑顔が見たいのかなぁ」

「笑顔?」

「心から笑ってる所、見た事ないから」


意地悪な笑みや、ふっと少しだけ微笑んだ顔は見た事ある。

だけど、どれもこれも、どこか偽りの笑顔に見える。

だから余計に、本当の、心からの笑顔を見てみたいと思うのかもしれない。

どうしてそう思うのかは、分からないけど。


ポツリと呟いた私を見て、仁美がふっと笑う。

そして。


「何かあったら言いな」


それだけ言って、私の頭を一度撫でてくれた。

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