嘘つきな君
◇
「おい」
ある、何でもない平日の午後。
神谷常務の『お守』が始まって数日が過ぎた頃。
今日は運良く彼はホールディングスの仕事があるとかで、私は自由の身。
のんびりと午後の仕事をこなして、喉が渇いたから何か飲もうと自販機の前で迷っていると、突然聞こえた不機嫌な声に思わずビクッと背筋が伸びた。
恐る恐る後ろを向くと、壁にもたれて腕を組んだ、酷くご機嫌斜めの神谷常務がいた。
「かっ神谷常務。なんでしょう?」
「ちょっと来い」
「はい?」
「いいから、ちょっと来い」
あまりの気迫に、言葉を飲み込んで一歩後ずさりする。
今日はいないはずでしょ!? という心の声を大にして言いたいけど、寸での所で飲み込んだ。
グッと唇を噛んで固まった私を見て、既に歩き出していた彼がゆっくりと体の向きを変えて、クイッと顎先を上げて私に来るよう促した。
その姿を見て、ムッとする。
何よ、人を顎で使って。
何様だっていうのよ。
――…あ、常務様ね。
悲しくも自分にツッコミを入れながら、渋々と彼の後を追う。
自販機の並ぶ一角から突然神谷常務が出てきたもんだから、他の社員達も驚いた様に頭を下げていた。
まぁ、女性社員に至っては目をハートにしてだけど。