嘘つきな君






「おい」


ある、何でもない平日の午後。

神谷常務の『お守』が始まって数日が過ぎた頃。

今日は運良く彼はホールディングスの仕事があるとかで、私は自由の身。

のんびりと午後の仕事をこなして、喉が渇いたから何か飲もうと自販機の前で迷っていると、突然聞こえた不機嫌な声に思わずビクッと背筋が伸びた。

恐る恐る後ろを向くと、壁にもたれて腕を組んだ、酷くご機嫌斜めの神谷常務がいた。


「かっ神谷常務。なんでしょう?」

「ちょっと来い」

「はい?」

「いいから、ちょっと来い」


あまりの気迫に、言葉を飲み込んで一歩後ずさりする。

今日はいないはずでしょ!? という心の声を大にして言いたいけど、寸での所で飲み込んだ。

グッと唇を噛んで固まった私を見て、既に歩き出していた彼がゆっくりと体の向きを変えて、クイッと顎先を上げて私に来るよう促した。

その姿を見て、ムッとする。

何よ、人を顎で使って。

何様だっていうのよ。


――…あ、常務様ね。


悲しくも自分にツッコミを入れながら、渋々と彼の後を追う。

自販機の並ぶ一角から突然神谷常務が出てきたもんだから、他の社員達も驚いた様に頭を下げていた。

まぁ、女性社員に至っては目をハートにしてだけど。

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