嘘つきな君
「あの、何ですか? 私も仕事があるんですけど」
物凄いスピードで歩く神谷常務の後ろを駆け足で進みながら、文句を言う。
私も暇じゃないんだから、用件があるならここで言ってほしい。
すると、不機嫌そうな顔で振り返った彼が突然足を止めた。
あまりにも突然足を止めたもんだから、そのまま彼に突進してしまった私。
その衝撃で彼の胸に思いっきり鼻をぶつけるハメになった。
「痛っい――急に止まらないで下さいよ!!」
「秘書が辞めた」
私の言葉を無視して、どこか投げやりに言葉を落とした常務。
鼻を押さえたまま、訝し気にその姿を見上げる。
「はい?」
唐突に言われた言葉に?マークが飛び交う私。
そんな私を一瞥した後、少し先にあった部屋まで再び闊歩し、乱暴にスーツのポケットからICチップが入ったカードを取り出してドアの開錠をした常務。
気づけば、いつの間にか常務室の前まで来ていたんだ。
入る様に促されて、慌てて部屋の中に入る。
常務室なんて初めて入るから少し緊張する。
チラリと辺りを盗み見れば、一面ガラス張りのお洒落な空間で、遠くにはいくつもの個室が見えた。
さっすが~、と内心思いながらも、我に返って言葉を落とす。
「あの、どういう事ですか?」
「だから、秘書が突然辞めた」
「ど、どうして辞めたんですか!?」
「知るか。朝着たら辞表が置いてあった」