嘘つきな君
「その調子で頼む」
「嫌ですよ! それに、今日限りじゃないんですか!?」
「そんなわけねーだろ。お前は今日から俺のもんだ」
「俺のもんって!!」
顔を真っ赤にして驚愕する私にそう言って、再び窓の外に視線を向けた常務。
相変わらず自己中だなと思いながらも、胸の奥が僅かに締め付けられて何も言えなくなる。
きっと、もうこれ以上何を言ってもダメな気がする。
それに、これは彼の独断ではなくホールディングスの決定。
彼の言う通り、そうなれば私に拒否する権利はない。
腹を括らなきゃかなと思い、諦めたように溜息を吐いた。
そのまま、専属の運転手が運転する車に揺れる。
チラリと隣を盗み見れば、窓の外をボーっと見つめる常務がいた。
過ぎ去っていく街の灯りが、端正な彼の横顔を照らす。
どこか物思いにふける様に、遠くを見つめる瞳。
横顔すら絵になるんだなと思って、思わず魅入ってしまう。
だけど。
「どうして……私なんですか?」
沈黙を破ったのは、この事が気になって仕方なかった私の方だった。
だって、普通に考えて適任は私じゃない。
つい最近まで、二流会社の広報部の1人でしかなかった。
ましてや、潰れかけた会社だ。
それに、神谷グループともなれば、超一流の人材が集まっている。
秘書なんて、腐るほどいるはずだ。
そんな疑問が今日一日私の頭の中をグルグルと回っていた。
上の決定だから素直に従えばいいんだろうけど、相手が彼だけに気になった。
どうして私なんだろうって――。