朝、目が覚めたらそばにいて
正直に言ったら弾き出されるかな…。
スタッフと何度も目が合う。
やっぱり怪しいと思ったのだろう。
一人のスタッフが不意に近づいて来た。
だけなのに、何も悪いことをしていないのに…

逃げてしまった。

「ちょっと、君!!!」

やだ、なんで逃げちゃったの、私。
集合場所だったロビーのすぐ横にあった非常階段を駆け登って行くと2Fの扉が見えた。
そこを開けてすぐに見えたのは女子トイレ。個室に逃げ込み鍵を閉める。
息を殺して外の様子を伺っていると騒ぎにはなっていないようで誰も中には入ってこなかった。

「どうしよ」

声を潜めているから電話はできない。
困った時の沙也加にまたLINEを送る。
さっきの助けのメッセージには「ハンカチにでもしてもらえば」という呑気な返事が書いてあった。今は緊急事態ということと、トイレにこもってしまったことを告げる。
今度はすぐに既読になった。と同時に着信音が鳴る。

「うわっ!」

突然鳴り響いた音にびっくりしてすぐに通話ボタンを押す。
個室からそっと外を覗くと誰もいない。それでも

「もしもし」

最低限の小さな声で話す。

「あんた、また何しでかしたの!今どこ?」

私が小さい声で話しているのに、沙也加の声は最高に大きい。

「出版社の二階の女子トイレ」

「出られるの?」

「わかんない、少し様子見る」

「悪いことしてないんでしょ。なんで隠れてるの。」

「あ、そっか!」

「スタッフになんか言われたら、ちゃんとサイン会に来たことを告げなさいよ」

「あー、サイン会!沙也加、また電話する」

サイン会が始まっちゃってる。
私は慌てて女子トイレを飛び出すと、そこには待ち構えていたようにさっき声をかけられたスタッフと警備員が立っていた。


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