朝、目が覚めたらそばにいて
「…ごめんなさい」

抵抗するのをやめ頭を垂れる。
警備員が痛いほどの力で掴んでいた私の右肘が急に解放され、また違う手がそっと掴み誰かに引き寄せられた。

「すみません、俺の知り合いなんで」

「えっ?」

スタッフも警備員ももちろん私も彼の顔を見る。

「あっ!」

そこにいたのは書店で逢った背中の彼だった。
姿は書店で逢った時と変わらない。
無精髭にメガネ姿。かろうじて寝癖はないものの、何も手入れせず家を出て来たような髪型だ。足元もビーチサンダルだし。
彼だって出版社の廊下で見るとかなり浮いている。

スタッフは彼が誰だかわからなかったようだが、関係者なのかもしれないと「ちょっと待ってください」とスマホで確認しようとしていたが、その電話は誰かに繋がることなく綺麗な女性の登場で切られた。

「あー、いたいた!あれ?どうしたの?」

緩やかにウェーブしたロングヘアを無造作に一つにまとめ、シンプルなカットソーとジーンズという姿なのにスタイルの良さでおしゃれに見える。片手でタブレットとスマホを重ね持ってどこにいても仕事ができるような雰囲気がかっこいい。

「佐々木さん、この方は…」

佐々木さんと呼ばれた女性にスタッフが背中の彼のことを聞く。

「私と打ち合わせ中だったのよ、電話中にいなくなるから探してたの。正太郎くん、なんかあったの?」
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