朝、目が覚めたらそばにいて
「サインしてもらう本を忘れたんだろ」

ぶっきら棒に正太郎さんが言う。

「なんでそれを」

「さっき言ってただろう」

「はぁ、そうでした」

彼、正太郎さんに会いたくて書店に通ってた頃、こんな風に偶然の再会を心待ちにしていた。
しかし今みたいにみっともない姿では会いたくはなかった。

「このまま帰す訳にはいかないわ。少し話できるかしら?」

ごもっともだ。
サイン会を諦め、佐々木さんの後をついていく事になった。
もちろん正太郎さんも一緒だ。

連れて行かれたのはミーティングスペース。
何個もテーブルがあってそれがパーテーションで区切られていた。
他にも何組かいるが、こちらを特別に気にしている様子もない事から、私は浮いて見えてはいないのだろう。

四人席の小さなスペース。
佐々木さんはタブレットとスマホをパタンとテーブルに置いて「どうぞ」と向かい側の席を進めてくれる。
正太郎さんは佐々木さんの横にある椅子をずずずっとズラして、テーブルからは離れた中途半端な場所にどかっと足を放り出して座った。

佐々木さんはそれを横目でチラッと見たが何も言わずに話し始めた。

「さて、まずは二人の関係を教えて」

事の成り行きを説明させられるとばかり思っていた私は的外れな質問に拍子抜けしてしまう。

「関係とは?」

「関係なんてあるか!」

ですよね。

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