朝、目が覚めたらそばにいて

「じゃ、正太郎くんは見ず知らずの…えっと、あ、まずは名前でも聞こうかな」

佐々木さんはお尻をヒョイと持ち上げてジーンズの後ろポケットから赤い革の名刺入れを取り出す。
そんな持ち方をして折れないのかと心配になるが、とても綺麗な名刺を差し出された。

「◯◯出版の佐々木です」

「あ、名刺を持ち合わせてなくて…山下、環奈と申します」

「山下さんね」

綺麗に笑う人だなと彼女の口元を見つめる。
その口元の端が片方だけキュッと上がると正太郎さんの方に向いて「こっちは坂口正太郎」
背中の彼のフルネームを告げた。



正太郎さんはタバコを口に加え出してライターに手をかけた瞬間、佐々木さんは「禁煙!」とそのタバコを口から奪い取った。

正太郎さんは「チッ!」と舌打ちをしてライターをポンとテーブルの上に置いた。
投げ出されたライターを見ながら彼の態度の悪さにびっくりした。

落ち着き始めるとなぜ彼が出版社にいるのか疑問が出て来る。
佐々木さんとの関係も。佐々木さんの名刺には編集部と所属が書いてあった。
なら彼もその編集部の人なのだろうか?

「正太郎くん、山下さんと知り合いなの?」

佐々木さんは正太郎さんにまずは質問する。

「いや、知り合いじゃない」

(えっ?)

「じゃ、たまたまさっき助けたわけ?見ず知らずのお嬢さんを。珍しい事するわね」

知り合いじゃないと言われ少しショックを受けながら二人の会話を黙って聞いている。


「本当は知り合いなんじゃないの?違うの?」


佐々木さんは疑うような目で正太郎さんを見ている。


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