初恋の人
しかし、倫太郎さんからの返事は、意外なものでした。

「いいや。仕事熱心で、いいじゃないか。」

そう言って笑って、私の近くに来てくれました。

「俺でよければ、なんでも聞けばいい…」

それから毎日のように、倫太郎さんは書庫を、訪れてくれるようになりました。


「市原は、どうして看護婦を目指したんだ?」

「どうして?」

社会の役に立ちたいとか、困っている人を助けたいとか、そんな立派な理由は、ありませんでした。

「お給料が、いいからかなあ…」

「えっ?」

倫太郎さんは、私の答えに、耳を疑っていました。

「私、誰の力も借りずに、自分の力で生きていきたいんです。」

「へえ…」

「そうすれば、男の人に理不尽な思いをされても、泣き寝入りする事はないし……って、男の人の前で、言う事ではないですね。」

倫太郎さんは、笑ってくれました。

「そんな話をしていると、君なら、できそうな気がしてきたな。」

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