初恋の人
「綾女。一言でいい……俺の子供だと言え。それで、俺達はまた一緒に生きていける。」


私は一体、なんてことをしてしまったんだろう。

夫は最後の最後まで、私に救いの手を、差し伸べてくれているというのに。


「この子は……あなたの子供です。」

私は顔を上げました。

「この子の父親は、あなたです。」

夫は何も言わずに、私を強く抱きしめてくれました。

そして私は、本当の幸せというものを知ったのです。


それから、三日ぐらい経った、夫が夜勤の夜でした。

外に人の気配を感じ、そっと戸を開けのぞいてみると、紳太郎さんが一人庭に立っていました。

「紳太郎さん。」

私が呼ぶと、彼はゆっくり近づいてきました。

「綾女、本当の事を教えてくれ。」

そう。

今日の朝、私に子供ができた事を、彼と詩野さんに伝えました。

詩野さんに何ヶ月か聞かれ、三ヶ月だと答えると、彼は茶碗を落とす程に、驚いていました。


< 73 / 80 >

この作品をシェア

pagetop