初恋の人
そう。

紳太郎さんはこういう人。

もし、今ここで紳太郎さんの子供だと話しても、彼は逃げずに、全てを受け入れてくれるだろう。

夫と詩野さんに、裏切り者だと責めたてられても、一歩も退かず、私を守ってくれるだろう。

そしてひっそりと、私と子供を連れて、幸せな家庭を気づいてくれるだろう。


だけどそうなれば、紳太郎さんの人生は?……

彼の人生は、どうなってしまうのだろう。

妻と兄を裏切って、決して幸せだとは、思えないのではないか。


私は静かに目を閉じると、彼にこう告げました。

「残念だけど、この子は夫の子供なの。」

「えっ?」

紳太郎さんは、信じられないという顔をしました。

「なぜ!」

「私は、倫太郎さんの妻だもの。夫以外の子供が、できるはずないわ。」

紳太郎さんは、悲しそうな目で、私を見つめました。

「あなたはそうやって、秘密を持って行くつもりなのか?たった一人で…」

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