いちばん、すきなひと。
勉強会
自習室へ戻ると。

先に、桂子と野々村が。
二人で仲良く、勉強会をしていた。

なんだ、
何を、緊張してたんだ。私。

あの二人を見て、そう思った。
私とやるようなやり取りを、
目の前の二人が繰り広げている。
さも楽しそうに。

なんだ。
そうか。

野々村にとって
女子と楽しそうに話すのは
当たり前の事。

それは私も例外でなく。
ごく、自然な事だったのだ。

分かっていたはず、だった。

浮き足立っていたのは
自分だけだった。
現実に、戻った気がした。


「どう?進んだ?」
私はごくごく普通に、桂子の隣に座った。
「みやちゃん、ちょうどよかった。今聞こうと思ってたとこ。」

問題で分からないところを聞かれて
自分が話せる範囲で、解き方を説明する。
そこに野々村がワンポイントアドバイスを付け加えて答えを導く。

「そっか、なるほどねー!」
みやちゃんは納得してスイスイ解いて行く。
教えた事が理解してもらえると、すごく嬉しい。

こうして。
みやちゃんが問題集を解く間は
私も野々村も自分の勉強を進めながら。

みやちゃんのペンが止まると
二人でヒントを出していく。

本当に、勉強会だった。

私が忘れている所は
野々村 のヒントで思い出す。
逆もしかり。

三人で、とても充実した時間を過ごせた。

ひととおり、桂子の問題集を解き終えて。
今日は終了となった。

「ありがとー!かなり賢くなった気がする」
桂子がうーんと伸びをして
嬉しそうに言った。

「役に立てたなら、よかった。」
私が言うと、野々村も
「俺も久しぶりに楽しめた。サンキューな。」
と、嬉しそうに言っていた。

その顔を見て
ちょっとだけ、ホッとした。

楽しめたなら、いいや。



そして。
この『勉強会』は、
この日だけで終わらず。

野々村とは特に連絡を取り合った訳でもなかったのに、
冬休みの間ずっと、続いた。




新学期。
ついに、席替え。

「みやのっちーお別れだなぁー」
後ろから、ワザとらしく野々村が話しかける。
「そだねーお世話になりやした。」
「相変わらず冷たいな。もっと惜しんでくれよ。」
「あぁ、ノノムラクントハナレルノ、ザンネンダワーって?」
「そうそう……ってまたソレ!もっと感情を込めて!」

私は演劇部ではありません。


やっと
この不毛なやりとりから解放される。
離れるのは、少しだけ
残念な気もするんだけど。


距離を取れば『他人』になれる。
このクラスも後少しで終わる。

隆くんの時のように、
春休みに入れば、距離ができて。
私のこの気持ちもきっと、冷める。

その、前置きとして
席替えがある。
離れるのだ。彼から。

楽しかった。
この席でよかった。

と、しんみり思いつつ
前向きになっていたのに。



いざ席替えしてみたら。

「よーみやのっちーまたよろしくなー」
隣に、なってしまった。

マジかよ……


私のあの感傷気分を返せ。
腹立たしい。

なのに、少し舞い上がっている自分もいて。
複雑。

この席が最後。
卒業まで、ここで。
彼の隣に座っていられる。


クラスメイト万歳。


「みやのっちー、今日も行くの?」
野々村が、聞いてきた。
図書館だろう。
「行くよ。」
「オレも行くから、また現地で落ち合うべ」
「イェッサ」

この、冬休みの間に
当たり前のようになった習慣が心地よくて。
三人の秘密のような感覚がくすぐったくて。
特別な、気がした。



この、秘密の勉強会の成果か。
新学期始まってすぐの実力テストで
私も予想以上に学年順位が上がった。

一番驚いたのは桂子だった。
「みやちゃん!」
と、配られた結果表を私の席に持ってきた。
「私、すごい!こんなに上がったの初めて!」

いつも真ん中、150番前後だった彼女が。
50番。

「100人も、抜いた?」
あの数日の勉強会で、アッサリと。
皆何やってんだ。

いや、それだけ桂子が頑張ったのだろう。
「すごい!すごいじゃん桂子!」
私は桂子の手を握って喜んだ。

隣で話を聞いていた野々村も一緒に喜ぶ。
「オマエすげーな!やればできんじゃん」
「えへ。自信ついちゃった。二人のおかげだよーマジありがと」

「おー。俺たち二人にかかれば無敵かもよ?な、みやのっち」
「んなワケないない。アンタの教え方がうまかったんだよきっと。」
野々村は、やっぱり頭がいいと思った。
考え方に無駄が無いというか。
だから、教えるのも上手い。
私がモタモタする時は必ず、野々村の解説が入る。

そういう事だ。

「まーたまたー謙遜しちゃってー」
野々村が私の背中をバンバン叩く。
痛い、ちょっと加減しやがれコノヤロウ。

「ところでみやのっちはどうよ?順位。」
「あがったよ。おかげさまで」

「マジ?見せて」

野々村のほうが上なんだから
見せるのかなりためらったが。

逆に、自慢にはならないからいいやと、素直に見せる事にした。

「……おー!スゲーじゃん。」
野々村の反応を見て、桂子がプリントを覗き込む。
「えーっ!ちょっと!みやちゃんそんなに良かったの!?」

ええまぁ。
それなりに。

「あぶねーオレ抜かれるわ。ヤバかった」
んなワケねーだろコラ。

「みやのっち、俺の順位気になる?」
「ならん」
「えーちょっとくらい知りたいとかない?」
「ないね。どうせ一番でしょ」
「えっ、なんで分かった」

コイツ……

「当たり前でしょ!アンタいっつも一番なの自慢してるじゃん。誰に聞いても同じ印象だっつーの!」
「そうか、自慢に聞こえるか。確かに俺はいつも一番だ。」

はいはい。

悔しい。
私の中では過去最高の結果だっただけに
更に上がいるのを見ると腹が立つ。

それがまたコイツときたもんだ。

でも、確かに。
野々村に教えてもらってから、理解できる事が増えた。
勉強が更に楽しくなったのも事実。
そこは感謝しておこう。

声には出さないけど
ありがとう、と。
< 14 / 102 >

この作品をシェア

pagetop