いちばん、すきなひと。
勉強は図書館がセオリーなワケ?
あの、予想だにしない初詣から3日後。
さすがに正月気分も抜けて、出かけたくなる。
親戚付き合いも元日と二日でほぼ済ませた。
3日目なんてそれはもうヒマでヒマで。
ひたすら借りた本を読んでいたら。

図書館の本4冊、全て読み終えてしまった。

桂子に借りた漫画も結局、読んでしまった。
面白かった。

けど、私には濃すぎる内容で。
刺激的、だった。

内容については、触れない。
とにかく、桂子が私より大人だって事は分かった。

そしてきっと
優子も好きそうな漫画だな、とも思った。
あえて勧めはしないけど。
きっと彼女も知ってる。これは。

もしかして。
私だけが、遅いの……かな。

私だけが、バカなんだろうか。
そんなはずはない、と思いたい。

中学三年で、何も知らないワケではない。
それなりに知識はある。
けど。
それをリアルに捉えるのって、当たり前なんだろうか?

とりあえず。
桂子のおかげでひとつ。
私は心構えが出来たと思っておく。

一体何の心構えだ、と自分でおかしくなった。
私は、誰にも期待されない。
だから、誰にも期待しないって
散々言ってるのに。

ずっとこのままだとは、思わない。
けれど。
今、頑張っても
あんまり効果を感じられないのが、事実。

どうして私は父親に似たんだろう。
そんな遺伝子レベルで恨みたくなる。
母に似れば
少しは人生楽しめたかもしれない。

あぁ私に春は来るんだろうか。

新年早々、そんな絶望感に討ちひしがれていると。
また桂子からメール。

「図書館、今日から開いてるよ。行かない?」
返信するのも、もどかしく。
私はそのまま、通話ボタンを押した。

「桂子?今から行くから用意しててよ!」




という訳で。図書館。
大学受験を控えた高校生が、たくさん居る。
こんなところに私たちみたいなお子様が混ざっていいのだろうか。
そんな気後れさえ、する。

でも。
私たちは勉強しにきたんだ。
と、言い聞かせて。
自習室の扉を、開けた。


「あれ」

また、コイツがいた。
野々村。

どんだけ被るんだ行動範囲。

それはお互い思ったようで。


でも今日は何だか違う。
私は野々村の周りをキョロキョロと見渡した。

「……宮迫たちは?」

「今日はオレひとり。いつもセットにするな」
あれ、いつもより無愛想。
機嫌、悪いのかな。

ふうん、と流して。

私たちは少し離れた席に着く。
桂子が自分で問題集を解いてるあいだに
私は、借りていた本を返す事にした。

ついでに、他に何か借りて帰ろう。

そう思ってすぐに自習室を出て、
返却カウンターへ向かう。

手続きを済ませ、また書棚をウロウロする。

次は何を読もうか。

「みやのっち」
野々村が、いた。

「何?」
私が振り返って訪ねる。
「本、もう読んだのか?」
「うん。面白かったよ。」
「読むの早いんだな」
「ヒマですから」
「受験を控えてるヤツの言葉じゃねーよな、それ」

野々村の言葉に、ちょっと笑ってしまう。
確かにそうだ。

「すいませんねー緊張感なくて」
「羨ましいよ、余裕そうで」

あれ、意外な台詞。

「いつも野々村の方が余裕っぽいじゃん」
「そうか?」
「俺様できる!って言ってる」
「それは事実だからな。」
「意味が分からん。じゃ、余裕でしょ。アンタのほうが。」

私は手をシッシッと振って、野々村を追い払おうとした。
またこんな会話だ。

例えコイツが一人で図書館に来ようと
直子が、宮迫と優子がまた
いつここに来るかなんて分からない。
変に誤解されては困る。

早く私の元から去ったほうがいいよ野々村。


「俺は賢いヤツと話してると落ち着く。」
「は?」
「頭いいヤツと喋ってるとさ、楽じゃね?」
「あー会話のテンポってヤツかな」
「そうそう、それ!」

実は、私もそう思っていた。

言いたい事を相手がすぐに汲んでくれる。
そのスピード感がとても心地よくて。

それは頭の回転がどうこうと思った事はなく、
単に、会話の相性がいいのでは、と思っていたのだが。

「で?何でそんな話を今?」
「いやだからさ、みやのっちと喋るのが楽しいって話。」
「あ、そ。」

嬉しい。

頭がいいかどうかはこの際置いておく。
私は残念ながら、賢くはないので。

でも。
喋るのが楽しいって言われるのは
とても、とても、ありがたい。

自分の存在を、確認できる。
それだけで。充分。


でも素直になれなくて。
そっけない返事をしてしまう。

「みやのっちは何でそんなにそっけねーんだよ?」
「元々こんなんじゃん私」
「そうだけどさ……もっと可愛くできねーもんかと」
「無理!すいませんねーそれだけは苦手分野だわ」
「あ、そ。」

腹立つ。
せっかく喜んでたのに。

男子っていつもこう。
女子は可愛いモンだと思ってる。

みんな、そうじゃないんだよ。

私だって、可愛くできたらいいのになって思う。
でも、それをやってる自分を
旗からみたら恐ろしい。
寒気がする。

自分じゃない自分が、嫌になる。
だから、このままでいい。

このままでいいって言ってくれる人がいたらいいのに。

無理か。


そんな諦めの溜息をついて。
私は本題を思い出す。
「あ、桂子ほったらかしだ。早く本借りて戻らないと」
私は野々村をスルーして
本を選ぶ事にした。

すると横から。
「これ、面白いから読んでみ」
と、差し出された
一冊の、本。


「……了解。」
それだけ呟いて。手に持って。

上の空で
他に数冊、手に取る。

たった、これだけの事なのに。
どうしてこんなにも
心臓の音が煩く聞こえるんだ。

顔が赤くなってないか気になる。
大丈夫だと、思う。

他の本をじっくり探したいのに、
集中できない。


結局。
適当に他の数冊を手にもって。
貸し出しカウンターへ並んだ。

野々村は、歩き出す私に
「一緒にやろうぜ。勉強。」
と、言ってきた。

どうしよう。
素直になったほうがいいのだろうか。

今日は他に誰も来てないらしい。
大丈夫だろうか。


ふと、春の事を思い出した。
自転車の後ろ。
あの時、乗れなかったーーーーー


ずっと、後悔ばかりしていた。
あの時、素直になっていたら、と。


少しは成長してもいいのかも。
そう思って。

一歩。
踏み出した。

「……いいよ。後で行く。」
「待ってる。」


心臓がばくばくする。
静まれ。

絶対、今。
顔、赤いと思う。

カウンターで受付を済ませた後。
トイレの鏡で自分の顔を見た。

マズい。
顔が赤い。


でも
やっぱり顔が赤くても
自分の顔は好きになれなくて。


そのおかげで少しテンションも下がって。
冷静になれた。

私の顔も、たまには役に立つもんだ。
残念なりに。


私は、こんなのだから
期待しなくて、いい。

単に、話しやすいから
勉強もしやすいと
認めてもらえた。

ただ、それだけ。
それで、充分じゃないか。

そう。それでいいんだ私。


鏡に映る自分の顔を見て決意する。
冷静に。
賢い自分で、行く。

私は、野々村と
対等。

そう言い聞かせて。
自習室へ戻った。
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