いちばん、すきなひと。
夏は少しばかり気が大きくなるんだろうか。
「ーーーえ」
私たちはキョトンとしてしまった。

近藤さんも言葉に困っている。
頬を指でポリポリとかいて。
「……うーん、そうなるよねえ。そうだよねえ。……やっぱ断ろうか。」
そこまで言って、再度電話に戻ろうとした時。
「別に、一緒に飲んで喋るだけでしょ?ちょっとならいいんじゃないの?」
加奈が言った。

「……どうする?」
近藤さんは私と美羽を見て聞く。
彼女の従兄弟だし、何の問題もないだろう。
それだけは言える。
「私は、どっちでもいいよ。」
卑怯かもしれないこの台詞。
先に言ってしまった。

美羽は少し悩んでいるようだったが
「……別に、ちょっとだけなら」
と、了承した。

「ホントに!?ホントにいい!?」
何故か念を押す近藤さんが気になった。
「……いい、けど」
私達は首を傾げながらも、せっかくだから人数が多いほうが面白いじゃんという結論を出した。

「え、だって近藤さんの従兄弟だよね?別にいいんじゃないのかな?」
「それはそうなんだけどさ。だって、飲むって言ってるから……」
ナルホド。
アルコールの問題、ね。

「お酒の事なら、バレない範囲でならイイんじゃないの?」
「だよね、そう、だよね……イヤでも後で絶対バレそうな気が……」
近藤さんはあははと苦笑いして。

「……じゃぁ、バレない程度にしてよ。私達まで巻き添えはごめんだからね!」
と、返事をしていた。
彼の母がここの女将だからだろうか。

「……うん、オッケー。じゃちょっとだけだよ。今から行く」
彼女はそう言って、電話を切った。
私たちを見て、説明する。
「ここからちょっと歩いた所に小さな居酒屋があるんだけど、そこに居てるんだって。まぁそんなに遅くならない程度なら大丈夫じゃないかな。近いし。」
私たちはただ頷くだけだった。

少し、緊張する。
さっき会ったといえども
初対面に近い人と飲むとか。

「ごめんねーホント付き合わせて。でもそんなバカな子じゃないから」
あはは、と近藤さんが微妙なフォローを入れている。
「ちょっとお酒強いから面倒っちゃ面倒なんだけど、ヤバくなる前に引き上げればいいかな」
「え……ちょっとそれ何、心配になるじゃん」
「え?あ、あはは大丈夫だって!ちょっとだけ一緒に飲んで、適当に帰ろう」

近藤さん、頼みますよ。
私達は、あなたが頼りです。


旅館の人に、心配されると大変なので
少し散歩に出ると言っておく。
ついでに花火とかできるといいね、なんて話をしながら
外へ出た。


星が綺麗だ。
こんな空、この辺じゃないと見れない。

「こっちだよー」
うっかり空に見とれている私を、近藤さんの声が呼んだ。
本当に、民宿から徒歩5分ほどの場所に、それはあった。

普通に居酒屋だ。
「いらっしゃー……あ!ユキちゃんね?久しぶりじゃないのさー」
カウンターに居たおばさんが親しげに声をかける。
「こんばんはーお久しぶりです。……タクミ、来てるって?」
「いるよー、奥の座敷だね。皆一緒に?」
「うん、アイツに呼ばれたから来た」
「あらー女の子と飲むなんて久しぶりなんじゃないかしら。楽しんでねー」
「おばちゃん、マジで叔母さんにこの事ナイショにしといてよ!私まで怒られちゃう」
「大丈夫!ジュースって事にしとくから」
あはは、とおおらかに笑って。
お店のおばさんは私達を奥に案内してくれた。

「……ここのお店とも小さい時からの付き合いなんだ。タクミなんか入り浸ってんじゃないかな」
こっそり、私達に教えてくれた。
とりあえず、身の危険はなさそうだ。

と、考えて自分が警戒していた事に気付く。
バカだろうか。知り合いを疑うようなこの感情は。
でも。そんなモンだろうと言い訳しておく。
なんせ、旅先なんて知らない事ばかりなのだから。


「おー!来た来た!」
「ホント急に呼び出すなんてーしかもさっきご飯食べたトコなんだよっ」
「でも飲めるっしょ?たまにはいーじゃん食べ過ぎたって」
「女子にそんな事言わないっ」
そう言って、適当に座る。

タクミくんの隣に近藤さんが座って。その隣に私。
その向かいに、彼の友達二人と加奈と美羽が座った。

「まーとにかく、乾杯ー!」
「カンパーイ」
皆でグラスを持ち上げる。

同い年という事もあって、すぐに打ち解けられた。
どんな学校だとか、授業の内容とか。ホントに身近な話題で盛り上がる。
タクミくんは、こなれているのか盛り上げ方が上手かった。

カクテルも美味しくて、つい追加注文が増えてしまう。
おばさんの料理も美味しい。
さっき食べたところなのに、こういう雰囲気だとつい、つまんでしまう。
久しぶりに、何も考えずに喋って笑ったような気がした。

いつも、気を使って喋る癖があった。
自分の事を気付かれないようにする癖が。

それが、この場所のせいだろうか
気を使わない仲間のせいだろうか
何も気にせず、思った事を口走る。
そして皆で笑う。

こんな楽しい時間が過ごせるとは。


「はー楽しっ」
思わず私は万歳のポーズでそう叫ぶ。
「みやのっちーかなり飲んでるねー大丈夫?」
「へーきへーきっ!こう見えて強いんだおー」
「……絶対強くねーだろ」
近藤さんとタクミくんに突っ込まれて、私はあははと笑い飛ばす。
なんでもいいじゃん、楽しけりゃ。

「……ダメだこりゃ、キャラ変わってるよ」
加奈も呆れて私を見る。
「普段の麻衣ちゃんが逆に気になるね、どんなの?」
タクミくんが近藤さんに聞く。

近藤さんは顎に手を当て、少し考えて言う。
「うーんとねーもっと真面目。だってさっき海で会った時の会話……!」
そこまで言って思い出したのか、彼女はまた笑い出す。
「自己紹介でフルネームって!ガッコウじゃないんだからさー……!」
「近藤さんだってキャラ変わってるじゃんかよーそんな事普段ツッコまないじゃんよー」
「んな事ないって」

もう、ほんとにくだらないやりとり。
だけどそれが一番、楽しかったりする。

しばらくひたすら喋って和んだところで
花火をしようという流れになった。

「そーいうだろうと思ってさ。花火持ってきたんだぜーイエーイ」
タクミくんが、花火セットなるものを見せた。
「おー!すごーい!打ち上げも手持ちもたくさん入ってるー!」
「でしょ、これやるつもりで最初から呼んだのっ」
「もーそれならそうと言ってよねー」

タクミくんの台詞に、近藤さんは少し怒った様子で背中を叩く。
「って!オマエは腕力あるんだから本気で叩くなっての」
「うっさいわねーアンタが正直にそれ言わないからでしょ」
「飲んで仲良くなれたらコレなんだよ。突然これじゃ気ィ使うだろがお互い」

ナルホド。
よく、考えているねこの人。

皆で店を出て
浜辺で花火を広げる。

「さーてっ、何からやろうかー」
「打ち上げやるっしょー」
「大きいのは最後だな、最初にひとつ小さめのやって、手持ちやりながら消費って感じ」
男子三人であれやこれやと計画を立てている。
こういう時の男の子って、少年に戻ったような顔をしていて楽しそうだ。

性格が出るなとも思う。
ハルくんは冷静で、きちんと状況を見ている。
どの花火をどこで使うといいなんて言っているあたり、相当こだわりがあるんじゃないだろうか。

タケルくんは適当。ホントどうでもいい感が出てる。
楽しけりゃオッケーとはこういう人が言うんだろうなと。

いきなり大きい打ち上げやろうとするのはもちろん、タクミくん。
ノリと勢いで何でもやる感じがなんとも面白い。

花火を買ったのは果たして誰の意見なんだろうか。
思いつきはきっとタクミくんだろうけど、飲み会の後で花火なんてスケジュールはハルくんの意見だろう、などとそれぞれの事を面白く見てしまう。
この三人、仲がいい。
学校でもこの三人でつるんでいると言っていた。
分かる気がする。


私も、皆ともっと仲良くできるかな。
この旅行で。


「っしゃ!行くぞー!……点火!始まるぜー花火大会っ」
タクミくんがライターを持って立ち上がった。
夏の夜は長く、楽しい。
私達は時間を忘れて、星空の下ひたすらはしゃいだ。
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