いちばん、すきなひと。
帰路にて。
結局。
明け方まで盛り上がってしまった。

外が明るくなり始めたのを見て
慌てて私たちは布団をかぶり、目を閉じた。

数時間後。
「ユキちゃん、朝ごはんの準備ができてるから……そろそろ起きてくださいよー」
叔母さんに起こされて、重たい瞼を開ける。

「はーい」
布団の中でユキが返事をする。
私たちは客だというのもあって、だらしない姿に居心地の悪さを感じ慌てて布団から飛び起きた。

「……おはよ」
お互い寝起きの不細工さに笑う。
大して寝ていない状態の、変なテンションがさらに追い打ちをかける。

急いで身支度を整え、朝食を済ませた。

「お昼過ぎの電車だったよね」
「15時2分発だから……14時過ぎに出たらいいかな。お昼食べて出るくらい」
ユキが電車のチケットを確認する。

とくに予定も計画もない。
さほど時間もない事、昼食を食べてからのチェックアウトで良いとの事から
近所を散策する事にした。

「お土産屋さんが少しはあったかなー」
ユキが記憶を頼りに道案内する。
海とは逆の、少し奥に入ったところに
温泉街がある。
そのあたりはお土産屋さんが立ち並び、観光地としての賑わいを見せていた。

「わー温泉もたくさんあるんだね」
「せっかくだからお土産早く買えたら温泉も入って帰ろうか。」

数件並ぶ中で一番広そうな店舗に入り、家族へのお土産を選ぶ。
皆であれでもないこれでもないと、ショッピングさながらに楽しんだがまだ時間にも余裕があった。

「じゃ温泉!」
皆で近場の温泉に入る。
どうやら美肌効果がテキメンらしい。

「そういやあんなにずっとガッサガサだったのに、昨日と今日は調子がいい」
私は自分の肌を触ってやっとその事に気付いた。

「ねー、いいでしょ。叔母さんのところの温泉もスベスベになるからね!」
ユキが自慢気に話す。
温泉の効能というのはこれほどまでにハッキリ分かるものなのか。

「美味しいもの食べてあったかいお風呂に入る。最高じゃん」
加奈が湯船に浸かって満足気に言う。
女子高生とは思えないセリフだが、正直な感想だ。

お風呂上がりには冷たい物が食べたくなる。
隣にはそれを見越したかのように、ミックスジュースとカキ氷のお店があるのだ。
「ここ出たらここに入るしかない流れだね」
四人でお店に入ると、先客が奥にいた。

「ーーあ!」
ユキの驚いた声に振り返ったのは
「……っと、まさかここで会うとは」
タクミくんたちだ。
ハルくんとタケルくんもいる。

「俺らあの後タクミんちに泊まってさ。さっきそこの風呂入ってきたところ。」
タケルくんが説明する。
なんだ、私たちと同じルートか。
凄い偶然。

「なんだーびっくりした。それにしても温泉なんてたくさんあるのにどうしてまた同じとこで……」
ユキが苦笑している。
「んなもん決まってんじゃん。ここ、一番近いだろ」

その通り。
私たちも、すぐ目についたという理由で入った。
時間もないから、という理由もあるが。

お店は観光客で混んできたので
私たちは商品を受け取ると店を出て外で食べる事にした。

タクミくんたちは既に食べ終えたところらしく、ついでだと言って一緒に店を出た。

すこし歩いたところに休憩用のベンチがある。
四人でちょうど並んで座れるサイズだった。
「あっ!写真!」
そういやそんなに撮ってない。
カキ氷は、果物がたくさん乗せられたアジアン風のカキ氷だった。
色とりどりで、これを写真に収めないわけにはいかない。

「撮ってやるよ。貸してみ」
タクミくんはそう言って、私達のカメラを受け取ってくれた。
「はいっ、チーズ」
四人で並んで撮るのはこれが初めてかもしれない。

昨夜のトーク後のほうが、仲が深まったような気がする。
写真にもそれが出ている気がした。

「いいねー」
撮り終えた写真を皆で眺めて満足する。

「あ、それうまそ。一口ちょうだい。」
タクミくんはユキちゃんのカキ氷を一口もらっていた。
昨夜の話を聞いてしまっただけに、素直に二人を直視できない。

ユキちゃんはまだ彼を好きだと言った。
彼はどうなんだろう。
あの雰囲気を見ると、ユキちゃんの片想いには見えない。
だけど二人は従兄弟だ。

どうなるんだろう。

私が気にしても仕方のないことなんだろうけど。
お互い、もっと好きな人ができて
それぞれの道を歩くのだろうか。
今の切ない想いも
笑い話になるんだろうか。

こっちが切なくなってしまいそうだ。
そんな時、私の気を反らすかのように
タケルくんは私に言ってきた。
「俺もこれ食べてみたいー。」
私のカキ氷にこれでもかと盛られたマンゴーを指差す。

「いいよーこぼさないでね」
スプーンを渡して、彼はそれを受け取り、一口食べる。

間接キス、だな

漠然とそう思ったけど
彼はそんなの気にするそぶりもなく。

野々村とのミルクティーを回し飲みした事も思い出したけど
あれも、これと同じなんだろうと
少し寂しく思った。

「ん。やっぱウマいっ」
タケルくんはウンウンと頷いて私にスプーンを返してくれた。

こういうの、気にしない人のほうが多いんだな。
自分だけか、と少し過敏な自分を恥ずかしく思いながら。
残りのカキ氷をたいらげた。


ふと、ハルくんが時計を見る。
「そういや皆何時までいるの?もう12時過ぎてるけど」
私たちは顔を見合わせた。
「あ、もう戻らないと」
「お昼食べて片付けて出たらちょうどいいよね」

「……みんな今からお昼食べるの?」
山盛りのカキ氷、しかもフルーツも盛りだくさんだったのをペロリと食べた後に昼食というのは、少し信じがたい光景かもしれない。
タケルくんが驚いて私たちに聞いた。

「うん、食べるよ。まだまだ食べれる」
私が余裕ぶってそう答えたので
彼はますます驚いたようだ。
「麻衣って……そんなに食べれるんだ。細いのに」
「あはは、これたまたま痩せただけだよ。すぐに太る太る。美味しい物はたくさん食べるからねー」
決して元が細いワケではない、と念を押しておく。
次に会った時に幻滅されては困る。

「……そう、なの?」
「うん、元はもっと厚みがあったから。多分すぐに戻るんじゃないかなー。戻り過ぎたらヤバイからセーブしないとダメかもね」
タケルくんは意外そうにしばらく驚いた顔をしていたが、うんと頷くと
「まぁ今よりちょっとくらい太っても問題なさそうだよね。丸くても可愛いんじゃない?」
そんな風に言われると、複雑な気分になる。
好きでここまで痩せたワケでもない。
そして
そんな簡単に体重が元に戻るワケではないのだ。

きっと、元の生活に戻ると。
また様々な悩みが絡んでくるのだ。

それでも。
丸くても可愛いなどと言ってくれるのは
素直に喜んでおこう。

「あはは、ありがとー。じゃお昼もいっぱい食べるわ」
「いいねーたくさん食べる子って好き」
この人も、こういう事をさらりと言う人種なのですね。

このタイプの人に縁があるのは何故でしょう。
「やったねーありがとー」
とりあえずマジに受け取るのは避けて
軽いノリで返しておく。
経験から、その方がいいと判断したのだ。
幸いここは友達もいる。
その程度のノリの方が無難だろう。
案の定とでも言おうか
それ以上踏み込む事もなく、会話は終了した。


旅館の前まで、皆で歩く。
お酒が入ってなくても、会話は盛り上がった。
前まで来て、別れる。

「また、遊びに来いよな」
「そだね、みんなで来るよ」
「俺らも行ったら歓迎してよー」
「分かった分かった」

それじゃ、と手を振る。
違う土地の、同い年の異性というのは
非日常な感じで。
特に何があるわけでもないのに
なんだかとても刺激的だった。


旅館に戻ると、美味しそうな香りが迎えてくれた。
「あら皆さん、散策は楽しかった?」
叔母さんが今朝と変わらない笑顔で出迎えてくれた。
「とても楽しかったです!」
私たちも笑顔で返す。
「それはよかった。お昼ご飯、食べてから帰るでしょ?もう準備できてるからいつでもどうぞ」
「ありがとうございます!」

私たちは一度荷物をまとめに部屋へ戻り、昼食へ向かった。


夕飯も豪華な海の幸をたくさんいただいたのだが。
お昼も海鮮丼や海鮮の味噌汁など、この地域ならではのメニューがずらりと並んだ。

先ほど食べたカキ氷は美味しかったのだけれども、結局お昼もペロリと食べてしまった。


とにかく、食べに食べて
飲んで笑った印象の二日間だった。

叔母さんにお礼と挨拶をし、駅へ向かうバスに乗り込む。
二人で最後に何やら話し込んでいたユキちゃんも、遅れて乗ってきた。
そして一言。
「ーーやっぱ、夜にタクミたちと飲んでたのバレてたわ」

私たちは苦笑いするしか、なかった。
バスは何事もなかったかのように
私たちを駅まで運んだ。
< 50 / 102 >

この作品をシェア

pagetop