次期社長の溺愛が凄すぎます！
「覚えていますよ。あなたの戯言は。ただ、僕の記憶が正しければ、あなたが自らの行動で壊したのだと思っておりますが」

足元から冷気が這い上がってくるような、低い声にぞくりとする。

こんな怖い藤宮さんは知らない。

そう思いながらも、どこか覚えがあるような気もする。

身を竦めた瞬間、以前、藤宮さんが冷たい表情をした時のことをハッキリと思い出した。


あれは、もう五年も前のこと。


思い切っていつの間にか俯いていた顔を上げると、視界の隅に、驚いたようにこちらへ向かってくる男の人が見えた。

一瞬だけ見て通り過ぎてしまったけど、でも見覚えのあるような気がして、視線をその人の方に向け直して目を細める。

その人と目が合って……そして息を止めた。

見覚えはあるはずだ。あの頃の少年のような明るい表情はない、でも面影だけはそのままに大人になった、元カレ。

「かな……」

ポツリと呟いた私の声に藤宮さんは振り向いて、それから後ろにいた奏斗に気がついた。

固まってしまった私の手を、藤宮さんが掴む。

「悪い。麻衣子」

何か？　ぼんやりとそう思った瞬間に、いきなり走り出されてギョッとした。
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