次期社長の溺愛が凄すぎます!
藤宮さんは逃げるが勝ちとでも思ったのだろうか?

引っ張られるままにしばらく走って、繁華街の真ん中まで来ると立ち止まり、お互いに息を整えながら顔を合わせる。

怒涛の如く、いろんなことがあり過ぎるんだけど。

さっきの女性が、もしかして藤宮さんの元婚約者さん? だけど、どうして奏斗と一緒にいたのだろう。

疑問に思っても、私の知らないことが多いような気がする。

無言で見つめ合っていたら、藤宮さんは顔をしかめ、ジャケットの前を開けると、指先でネクタイを緩めた。

「少し暑いな」

「まぁ……だいぶ暖かくなってきましたから。それに走りましたし」

私も藤宮さんもカッチリとスーツのジャケットまで着込んでいるので、熱くなるのは当然というか。

だからといって、私も藤宮さんの真似して、ブラウスのボタンを外すわけにはいかないんだけど。

「飲みに行きますか」

「賛成だ。厄払いをしよう」

……元婚約者との再会は、彼にとって“厄払い”の対象らしい。

「えーと。目的のバーはどのあたりなんですか?」

「もう少し歩くかな。本当なら車を使おうかという距離ではあったんだが」

藤宮さんの言葉に小首を傾げて考える。

予定していたバーは捨てがたいけど、歩くのも疲れる。

喉が渇いた。

座りたい、しかも早急に。

たぶん日頃の運動不足が祟っているんだろうな。

そう思って苦笑した先に見えたのは、どこにでもある、チェーン店の居酒屋の看板だった。









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