続*もう一度君にキスしたかった

由基さん……でいいんだよね。


脳内で反芻しただけで、なんだか物凄く馴染みがない上に恥ずかしくなって顔が熱い。


「あの、ちょっとだけ、待って。なんか慣れなくて恥ずかしい」

「無理強いはしないけど。そしたら、あの信号が青に変わるまでに、どっちかで決めて。それで納得する」

「ええっ!?」


それってまだしばらく「朝比奈さん」のままかそれとも「由基さん」か、てこと?
ちゃんと名前で呼ぶからちょっとだけ深呼吸させて欲しいのに。


「あ。向こうの信号が黄色になった。こっちもうすぐ青になるよ」

「え、あ、ちょ、」


こんなささやかなワガママ、聞かないわけはないのだけど心の準備が整わない。
それをまさか信号の色が変わるまで、だなんて。


「あ、変わった」

「よ……! しき、さん!」


慌てて口にした彼の名前は、変な細切れになってしまった。


ぱ、と信号が青に変わったのは、その後だった。
再び車が緩やかに走り出す。


今、朝比奈さんの声に追い立てられて口にしてしまったけれど、信号の色が変わる前だった。
わざとはっぱかけたな、と隣を睨んだら、彼が片手で運転しながらもう片方の手で、口元を覆っていた。


「真帆、もう一回」

「……由基さん?」

「しまった。なんでこんな、手を出そうにも出せない時に言わせたんだろ」

「え」

「今、すごくキスしたい」


口元を覆う手が拳になって、彼がひどく緩んだ表情をしているのが暗くてもよくわかる。
自分が呼ばせたくせに、照れているのだ。


「ぷっ……無理ですよ、前見て運転ですよ」

「わかってる。待って、今停められそうなとこを探してるから」

「探さなくていいですよ!」


キスするためにわざわざ停車とか止めて!

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