続*もう一度君にキスしたかった
「きっとね……」


少し、緊張の色を滲ませた声に顔を上げた。


目頭が熱い。
歪んだ視界が、自分が今涙ぐんでいるのだと教えてくれる。


「結婚して、奪われるものが多いのは女性の方だと思う」


とても、静かな低音の声。
未来の話をしているのに、浮かれたものではなくて粛々と耳に響いた。


「仕事も勿論、子供が出来たら尚更」


声が出なくて、俯いたら涙が手の上に落ちた。


「だから真帆が納得するまでゆっくり待てばいいと思ってたけど、やっぱり僕は早く君が欲しいんだ」


彼の手が、私の手から箱を持ち上げ指輪を手に取ると、箱だけ窓際のテーブルに置いた。


「君から奪うものの分、それ以上に、君が笑っていられる時間を与えてみせる。幸せにするよ」


片手が私の頬の涙を拭い、それから左手を取った。
決意のこもった、強い目だ。
だけどやっぱり少しだけ固くて、それだけ強く願ってくれているのだと伝わってくる。


「だから真帆、僕と結婚して欲しい」


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