続*もう一度君にキスしたかった


涙で滲む視界で、少し首を傾げて彼を見上げている。
普段自信に溢れて余裕のある彼が、瞳を揺らしながら私の答えを待っている。


「……朝比奈、由基さん」


深呼吸して、彼の名前を呼んだ。
かしこまった声に、少し彼の表情が強張った。


この一年を節目だと思って、仕事に奔走した。
頑張れば頑張るほど、思い知ったことがある。


彼はきっと、仕事を今までと同じペースでこなしながらでも私を幸せにしてくれるだろう、さっき約束してくれた通りに。
だけど私には、そんな器用なことはできない。


彼は、誰の力にもなれるけれど。
私はせいぜい、ひとりだけ。


そして、朝比奈さんがたまに弱くなれるのは私の前でだけ、それがよくわかった。


「私も、あなたを幸せにしたい。だからお嫁さんにしてください」




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