《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「今日は新月なのか…?」
何度も足を運び見慣れている中庭。今は星明かりも無く闇が拡がっており全く別の場所にさえ思えた。
いつもは心地の良い風が吹いている筈だが今日に限って豪風が吹き荒れ、嵐の如く辺りの草木を激しく揺らしている。
奥に進む程に強くなってゆく風。
ジュリアンは風を身体に受けながら瞳を凝らし、一歩また一歩とその中心へと近づいて行った。
風の音に紛れて声にならない悲痛な叫びが聞こえてくる。
「……っ……!! っ…うう……く…!」
中庭のほぼ中心にそびえ立つ大樹の下、探していたその姿を見つけた。
ラインアーサは芝生の上にうつ伏せ状態のまま拳を何度も地面に叩きつけている。
「アーサ! 何やってんだ!!」
駆け寄るも、ジュリアンの声が届かないのかラインアーサはその行為をやめようとしない。
「やめろって! アーサ!! それ以上やったら大怪我する…!」
既に拳は血で真っ赤に染まり見るからに痛々しい。ジュリアンは両腕を掴むとそのままラインアーサの背中を押さえ込み動きを封じた。
「…っ離してくれ! 離せよジュリ!!」
「嫌だね。ほら手ぇ見せろ! 手当する」
「手当なんかどうだっていい…っ! 俺は……俺なんか……」
「どうだっていい訳ないだろ。そんな事、言うなよ」
「っうう……ジュリ……俺、、何も、出来なかった…っ……俺の、せいで姉様が……!」
「アーサのせいじゃあない」
「違う! 俺のせいだ!! 俺が弱いから……」
力いっぱい拳を握ると更に傷口から血液が滲みだす。ジュリアンはラインアーサを押さえ込んだまま両手の手当を始めた。
「ったく、俺はアーサ程上手く出来ないからな。でも止血と痛み止め位にはなるかな?」
警備隊の訓練所で何度も講習を受けたがこれだけはなかなか上達しなかった。それ程高度な煌像術だが、たどたどしい手つきでラインアーサの両拳に煌像術をかけてゆく。
完全回復はしないもののとりあえず止血出来た事にジュリアンは息を吐いた。
「ジュリ……これって、癒しの煌像術…!」
「ああ。でもまだまだお前みたいに完璧には出来ないけどな。他に痛む所は?」
「ん、大丈夫……ありがとう」
多少落ち着きを取り戻したラインアーサ。ジュリアンは抑え込むのを止め、身体を起こしてやった。
会わなかった期間はたったの半年だが、ラインアーサはまた少し大人びた印象になっていた。
何度も足を運び見慣れている中庭。今は星明かりも無く闇が拡がっており全く別の場所にさえ思えた。
いつもは心地の良い風が吹いている筈だが今日に限って豪風が吹き荒れ、嵐の如く辺りの草木を激しく揺らしている。
奥に進む程に強くなってゆく風。
ジュリアンは風を身体に受けながら瞳を凝らし、一歩また一歩とその中心へと近づいて行った。
風の音に紛れて声にならない悲痛な叫びが聞こえてくる。
「……っ……!! っ…うう……く…!」
中庭のほぼ中心にそびえ立つ大樹の下、探していたその姿を見つけた。
ラインアーサは芝生の上にうつ伏せ状態のまま拳を何度も地面に叩きつけている。
「アーサ! 何やってんだ!!」
駆け寄るも、ジュリアンの声が届かないのかラインアーサはその行為をやめようとしない。
「やめろって! アーサ!! それ以上やったら大怪我する…!」
既に拳は血で真っ赤に染まり見るからに痛々しい。ジュリアンは両腕を掴むとそのままラインアーサの背中を押さえ込み動きを封じた。
「…っ離してくれ! 離せよジュリ!!」
「嫌だね。ほら手ぇ見せろ! 手当する」
「手当なんかどうだっていい…っ! 俺は……俺なんか……」
「どうだっていい訳ないだろ。そんな事、言うなよ」
「っうう……ジュリ……俺、、何も、出来なかった…っ……俺の、せいで姉様が……!」
「アーサのせいじゃあない」
「違う! 俺のせいだ!! 俺が弱いから……」
力いっぱい拳を握ると更に傷口から血液が滲みだす。ジュリアンはラインアーサを押さえ込んだまま両手の手当を始めた。
「ったく、俺はアーサ程上手く出来ないからな。でも止血と痛み止め位にはなるかな?」
警備隊の訓練所で何度も講習を受けたがこれだけはなかなか上達しなかった。それ程高度な煌像術だが、たどたどしい手つきでラインアーサの両拳に煌像術をかけてゆく。
完全回復はしないもののとりあえず止血出来た事にジュリアンは息を吐いた。
「ジュリ……これって、癒しの煌像術…!」
「ああ。でもまだまだお前みたいに完璧には出来ないけどな。他に痛む所は?」
「ん、大丈夫……ありがとう」
多少落ち着きを取り戻したラインアーサ。ジュリアンは抑え込むのを止め、身体を起こしてやった。
会わなかった期間はたったの半年だが、ラインアーサはまた少し大人びた印象になっていた。