《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
 現状。シュサイラスア大国は国境の町を破壊され、王女イリアーナを人質に取られてしまった。
 アザロア国家や、フリュイ公国もほぼ同じ状況だという。定例会議で王が不在の中、人質を取られたとの事。
 これら全てを企み、実行したのがルゥアンダ帝国とマルティーン帝国だというのも事実だった。

 内乱を起こした根拠となる理由は、古に起きた出来事まで遡る。
 遥か昔。リノ族がヒト族に迫害を受け、このリノ・フェンティスタに追いやられた事に対する〝復讐〟だと言うのだ。

 今回の定例会議の主催はルゥアンダ帝国。会議が始まるなり通常の議題ではなく〝復讐〟について雄弁に語り出したジャコウは何かに取り憑かれでもしたのか、普段とは別人の様に意気揚々としていた。

『リノ族はリノ・フェンティスタを創りこの地で身を潜めてひっそりと繁栄してきた。

そしてヒト族に対抗出来るまでの力を付けた今、今度は現世からヒト族を追いやるのだ。

今再び現世の地をリノ族に取り戻す時!』

 ジャコウはさも愉しげにそう謳い、マルティーン帝国のグロスはこの主観に賛同したとの事。

 確かに今日のリノ族が一丸となりそれぞれの力を寄り合わせればヒト族に対抗出来る程の力があるのやもしれない。
 だがリノ族は元より争い事を好まない。
 しかしジャコウは積年、ヒト族に対する怨めしい感情を少しづつ膨らませていたのだ。それが今、弾けてしまった。
 既にマルティーン帝国を味方につけ、全ての国をも合意させようと迫ったが他の国の王達は誰一人頷かなかった。

 そこで首を縦に振らせる為、人質が必要になったのだろう。

 この内乱はルゥアンダ帝国のジャコウが絡繰っているのは明らかだが、人の良いマルティーン帝国のグロスが企み事に加担しているとは思えない。
 そうなるとやはりグロス皇帝の傍に居た護衛のサミュエルという男が一役買っているに違いなかった。
 後々判明したが、やはりグロスも愛息子 メルティオールを盾に取られルゥアンダ帝国に恭順していたという事実が判明する。
 それでもマルティーン帝国が起こした大水害により海は大荒に荒れた。

 全ての国を繋いでいた移動の足である列車(トラン)の海上路線は津波によりその殆どが破壊され、個々の国は孤立状態となった。

 しかしながら。ルゥアンダ帝国の者達は空間を移動する魔像術(ディアロス)を身につけており、各国に兵士を送り込み大軍を率いて首都や街を攻撃したのだ───。
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