《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
 幸い広大な大地と気候に恵まれ、農作物や果実等も豊富に採れるシュサイラスアでは食物の備蓄も多い。

 シュサイラスアへと着く列車(トラン)の路線修復もだいぶ進み、煌都パルフェとの行き来が可能になる。するとパルフェに一時避難していた難民もシュサイラスアへと大勢流れ着く。
 ライオネルは今回の内乱で傷付いた民と他国の難民達を分け隔てなく公平に接した。街の広場や避難区となったノルテ地区では週に何度も炊き出しを行い、人々を少しでも飢えから守る事に徹した。

 この内乱で皮肉にも正式に警備隊に入隊となったジュリアンも、炊き出しや荒れた街を立て直す為に身を粉にして走り回った。
 その他にも難民受け入れの噂を聞きつけ、港の街イグアルダには暫く船の来航が耐えなかった。ジュリアンも港町に向かいたかったのだが父グレィスとクロキの活躍の情報を耳にし、今自分に出来る事に集中しようと務めた。
 イグアルダではグレィスが隊を率いて街を立直し、僅かふた月で水害の爪痕は多少残るもほぼ分からなくなる程に復興を果す。
 クロキはこの時の活躍が認められ、グレィスの元で副隊長としてそれ以上の働きを見せていた。

「父さんも先輩もすごい…! 俺も頑張らなきゃな」

 もどかしく思う気持ちもあったが、目の前の問題を投げ出す事はどうしてもできなかった。
 イグアルダの復興を筆頭に漸く内乱が収束に向かって更にひと月が程経った。それでもまだまだシュサイラスアの復興に力を入れがむしゃらに走り回っているライオネル。必死になっていないと逆に倒れてしまうのではないかと思わせる程だ。
 ジュリアンの眼にはそう映った。

 エテジアーナはあの日を境に体調を崩し、身体も起こせない程弱っているとサリベルから聞いた。それを自分のせいだと毎日泣き腫らしてばかりのリーナ。ジュリアンは元気づけたい一心でリーナを励まし続けた。
 しかし最もジュリアンの心を痛めたのがラインアーサの状態だった。同じくあの日を境にラインアーサの表情から色が消え、一歩も自室から出ようとしなかった。

 ジュリアンはどんなに忙しく疲れていても、一日の終わりには必ずラインアーサの部屋を訪ねた。

「───アーサ。入るぞ?」

 部屋に訪れ寝室の扉を叩くも、返事はない。
 ジュリアンは寝室に入るとまっすぐ出窓へと足を向ける。ラインアーサは出窓に腰を掛け、茫と外の様子を眺めていた。

「……」
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