王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
おかしかったし呆れもした。でも何より、愛おしいと思った。
僕の言葉で寄り添おうとするのか。通じないのに。
泣きたいくせに笑うのか。僕がそばに来たから?
自分のこと、優先すればいいだろうに。きっと何も考えずに相手を優先する癖がついてしまっているんだろう。
いじらくてかわいくて。初めて感じる庇護欲に僕はいてもたってもいられなくなった。
「クワッ」
僕が守ってやるよ。ずっと本気で笑っていられるように。
その気持ちは、エマに通じたんだろう。彼女は自ら望んで僕と使い魔の契約をした。
話が通じるようになって、エマも前から僕が見ていることに気づいていたと教えてくれた。
なんだよ、僕たち、相思相愛だったんじゃないか。
「あなた、名前は?」
「特にないよ。マグパイ同志は、おい、とかそこの、って呼び合ってる」
「それは名前じゃないわ。じゃあ私が名前を付けてあげる」
妙に得意になって、胸をそらして。そのしぐさがまた可愛い。
小さいくせにお姉さんぶるのは、実際エマがジュリアの姉だからなんだろうけど、僕にはそれもおかしかった。
「じゃあ、あなたはバーム。レモンバームのバームよ」
エマはレモンバームについてそこから延々と語りだしたが、僕にはそれはどうでもよかった。エマがくれた僕だけの名前。それだけでもう特別だから、理由なんていらない。
「バーム」
「ねぇバーム聞いてよ」
名前を呼ばれるというのはこんなに気分のいいものだったのか。彼女が僕の名前を呼ぶと、金ぴかのお宝を見つけた時よりわくわくした。
城下町に引っ越すといわれた時も、直ぐに快諾した。仲間と離れるのが寂しいとは思わなかった。
僕はエマとともにいるために生まれてきたんだって思っていたから。