王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
「うわっ、なんだ?」
「バーム。……マグパイです。鳥が懐いてたまにやってくるんです」
「マグパイが懐くか?」
ギルバートが驚いているうちに、エマは明り取りの窓を開ける。その窓は小さく、警戒心のある野生の鳥が入ってくるとは思えなかったが、そのマグパイは隙間から頭を入れて部屋に入ると、棚の上にとまってギルバートを見下ろした。
「……なんかムカつくな」
本能で挑戦的な空気を感じ取り、ギルバートはマグパイを睨む。鳥はどこ吹く風で、小馬鹿にしたように「コロックルー」と鳴く。
「いい子ですよ。バームおいで」
エマに呼ばれて、鳥は彼女の肩に停まってまた一鳴きした。
肩に鳥が乗っている状況など、鷹狩をする男ならともかく、こんなに線の細い女性には恐怖を感じるものじゃないのか。
ギルバートはそう思ったが、彼女は全然平気のようで、むしろ、親しいものと話すときのような屈託のない笑顔を鳥に向けていた。
ちりり、と胸がきしむ音をギルバートは聞いた。
人間の自分が、鳥に負けたような気がして、ついついむくれてしまう。
「……また来る。何か困ったことがあれば、俺に言うんだぞ」
「ありがとうございます。ギル様」
「その、仰々しい話し方も辞めていい。ギルと呼んでくれ」
「では、ギル。……本当は、王城に店を出すなんて怖くて仕方なかったの。知った人がいて嬉しいわ」
エマが本当にほっとしたような表情で笑ったので、先ほどまでの不満が一気に吹き飛んだ。見とれてしまったギルバートは、照れ隠しに背中を向けて、「また来る」と言い放って扉を閉めた。
バクバクと留まることを知らない動悸を誤魔化したくて、ギルバートは騎士団詰所までの道を一気に走り抜けた。