王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
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「なんなんだい。あいつ」
「ギル様よ。前に城下町のほうの店に来てくれたの。肩を怪我していたんだけど、綺麗に治ったようで良かったわ」
バームの問いかけに、エマはお茶道具を片付けながら答えた。
前に店に来た時から、格好いい人だなと思っていた。騎士服がよく似合っていて、しっかりした体つきから怖いのかと思えば、笑った顔は優しい。きっと騎士団でも有望な人なんだろうと想像し、その割にちょっと世間知らずなところがエマの母性本能をくすぐった。
騎士団の人だからいつかは会えるだろうと思っていたが、こんなに突然やってくるなんて思わなかった。
予想外の再会は、エマの胸を熱くしていた。
「私のお茶、飲みたいって」
口元が自然に緩んで、浮かれたようにエマが鼻歌を口ずさむと、バームが水を差すようなことを言った。
「社交辞令だよ」
「そんなことないわ。お茶……喜んでくれたもの」
「エマは世間知らずだな。男はエマみたいな女の子を常に狙ってるんだぜ。危ないったらありゃしない。僕が見張っていてやらないと」
「バーム。傍にいてくれるのは嬉しいけど。お城の貴族様は部屋に鳥がいるのを良く思わない人もいるの。あまり見えるところに出てきちゃだめよ」
「分かってるって。ちょうどこの部屋が覗ける位置に木があるから、そこから見てるよ」
「……縄張りとか大丈夫なの?」
「ちゃんと解決してあるよ。……話し合いでね」
それ以上の追及を避けるようにバームは小窓の桟に飛び乗る。
誤魔化そうとするあたり、どうせまた喧嘩をしたのだろう。バームは男気溢れるのはいいのだがどうにも喧嘩っ早い。