王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~

「きゃっ」


考え事をして歩いていたセオドアは、小さな声にハッと我に返った。
見れば美しい令嬢が目の前で尻もちをついているではないか。


「こ、これは失礼した。考え事をしていて」


手を伸ばすと、彼女はおずおずと彼の掌の上に手を乗せた。
自分が触ったら、それだけで折ってしまうのではないかと思うほど、細い手首。
その白さと触れた瞬間の肌の滑らかさに、セオドアは思わず驚いてしまう。


「すみません。私も考え事をしていて前を見ていませんでしたわ」


セオドアが彼女を引っ張り上げるのに、たいした力は必要なかった。
ふわりと持ち上げて、彼女に腕を貸したまま、「どこか痛みはありますか?」と聞いた。


「いいえ。大丈夫です。さすが騎士様ね。私がぶつかってもびくともしないんですもの」

「本当に申し訳ない。あなたは……」

「ヴァレリア=マクレガーです」


セオドアはハッとする。マクレガー侯爵家の令嬢は、騎士団の中でもまるで妖精の姫のようだと噂され、誰もが憧れている女性なのだ。


(ああ、たしかに)


そのはかなげな美しさは、人のものでないと言われても納得できる。


「マクレガー侯爵のお嬢様でしたか。失礼しました。私はセオドア=ニューマン。ニューマン男爵家の長男です」


マクレガー侯爵は、王家の遠縁にあたる。
家柄的には国王家に続く名門で、たしか毎週の舞踏会にも必ず出席しているはずだ。

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