王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~
(貴族の中でもきっと上の立場の人間なんだ。侯爵様? 伯爵様? ……私には分からないけれど、雲の上の人であることは間違いない……)
扉の向こうに、ギルが消える。
戻って来ても、もうエマにとって、昨日までの気さくで話しやすい騎士団の青年ではない。
胸が締め付けられるようだった。
「……あなたは、誰なの」
知ったところでどうなるわけでもない。
もともと、彼と恋人になるなんて夢のまた夢だ。本気で叶うなんて思っていたわけじゃない。
だけど、遊びでからかわれていたのだと思ったら、悲しかった。
*
一方のギルバートは、自分の失言には全く気付いていなかった。
昨日ヴァレリアの気持ちを聞いた時点で、令嬢を妃候補として選ぶ選択肢は無くなった。
もちろんシャーリーンも彼の好みの女性ではない。なんとかして縁談を破談に持ち込めないか考え続けていて、今も頭がいっぱいなのだ。
ヴァレリアに関してはもう問題ない。
むしろセオドアの間を取り持ってやって、大事な家臣の恋路を応援したとなればそれなりに体裁が保てる。
問題はシャーリーンのほうだ。
舞踏会やお茶会でも積極的に話しかけてくるから、彼女がギルバートにご執心なのは誰もが知っている。彼女を傷つけず、伯爵の体面もつぶさずに結婚を断る方法……それがギルバートには思いつかない。