王太子様は、王宮薬師を独占中~この溺愛、媚薬のせいではありません!~


「あ、失礼」

「痛いじゃないの。気を付けてよ」


考え事をしていたせいで周りに目がいっておらず、角を曲がったところで令嬢とそのお付きの侍女とぶつかった。


(げ、シャーリーン嬢)


彼女は騎士団の制服しか見ていないようで、ギルバートだと気づいた様子はない。
そそくさと立ち去るときに、侍女が「お嬢様、今の……」という声が聞こえ、慌てて手近の部屋に身をひそめた。


「王太子様? 嘘、どこ行ったの。いないわ」


パタパタとシャーリーンが歩き回る音がする。ギルバートはしばらく待ち、彼女たちの気配が無くなったところでこそこそと出てくる。
変装したままの姿ではまずいので、騎士団の紋章入りの胴衣は脱いで腕にかけ、ヴァレリアの部屋へと向かった。


「はい、どちら様ですか。……まあ、これは、王太子様」

「侍女殿。ヴァレリア殿はいらっしゃるかな。内密の話があるのだが」

「まあっ。おりますわ。ぜひお入りになってください」

「いや。……ちょっと来てもらいたいんだ。彼女を借りるよ」


ヴァレリアの侍女は、いつもの恰好とは違ってもギルバートであるとちゃんと認識したらしく、慌てて奥に入り、ヴァレリアを呼んできた。


「まあ、ギルバート様」

「ヴァレリア殿、昨日はどうも。実はね、セオドアが怪我をしたらしいんだ」

「ええ?」


ヴァレリアの白い顔が一気に青ざめる。
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