愛人契約
そして本田さんは、タクシーを呼んでくれた。

「送るよ。」

「いえ、そんな!」

「送らせて。」

そしてまた真っすぐな瞳で、私を見つめてくれた。


「君を抱く事もできない、家の近くまで送らせてもくれない。それじゃあ、今日来た甲斐がないじゃないか。」

「は、はい。分かり……ました。」

そんな情熱的な事を、この期に及んで言うなんて。

ずるい。

こんなんじゃあ、今日の夜にでも、電話してしまいそうになる。


二人でタクシーに乗って、私の家の方面へと、車を走らせた。

「……君は、どうして今日来たの?」

本田さんの問いに、息が止まった。


そう。

どうして、私はここに来てしまったんだろう。

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