花と蝶
目覚めると心配そうに頭にカリマを着けた医女が顔を覗き込んできた。
「お目覚めですか?」
「こなたは意識を失ったのね。真っ暗な世界に一人だけだったわ」
「お疲れなのです」
医女に支えられながら起き上がると朴尚宮が擦り寄ってきた。
「媽媽、心配致しました」
「大丈夫よ。こなたを担当した医女の名前は?」
「今善(クムソン)でございます」
朴尚宮に言われて正嬪は自分の体を支えている今善に小さく礼を言った。
「燕の巣をご用意します」
今善が言った。
「ハトムギの汁物でいいわ」
ハトムギの汁物はとても苦いが悪夢に効くと言われている。それを知っている今善はあえて精がつき、飲みやすい燕の巣を用意するといったのである。
「こなたのはただの悪夢よ。ハトムギの汁物で良いわ」
「かしこまりました」
今善から変わって朴尚宮が正嬪の体を支えると今善はハトムギの汁物を作りに下がって行った。
「なぜ、ハトムギの汁物のような苦いものを?」
「心がとても苦いからよ。苦いのだから、ハトムギごとき苦くないわ」
朴尚宮は何か言おうとしたが、言葉を胸にしまった。
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