花と蝶
しばらくして、ハトムギの汁物が運ばれてきた。灰色のとろみの強い汁物でとても飲めたものではない。
運ばれてきて直ぐに正嬪は受け取り、それを飲み干した。
「媽媽、どうぞ甜点心を」
朴尚宮が甜点心を差し出したが、正嬪はそれに手を出さなかった。
そんな中、控えていた内人が扉越しに劉尚宮が見舞いに来たと告げた。
「通して」
「かしこまりました」
そう外から聞こえると寝所の扉が開き、劉尚宮が現れた。薄緑のチョゴリを着ていたが、表情に色がないせいか彼女には似合わなかった。
「媽媽がお倒れになったと聞いてお見舞いに参りました」
「ありがたいわ。座って」
「感謝します」
劉尚宮はその場に腰を下ろした。頭を下げるとカエルのチョプチが見えた。
チョプチは髪につける装飾品の一つで身分を表す物の一つになっている。
大王大妃、王大妃、大妃、王妃、世子嬪、正孫嬪は龍、嬪御は鳳凰、尚宮はカエルと決まっていた。
承恩尚宮はあくまでも尚宮なのでチョプチはカエルであり、鳳凰は着けなかった。
「劉尚宮はずっと承恩尚宮なの?」
「はい。福がございませんから…」
「でも、あなたには誠仁君がいるわ」
「私めは身分が低い内人でしたし…中殿媽媽から疎まれています」
「今の身分に満足しているの?」
「誠仁君がいれば私めは身分など考えません。それに淑儀や昭媛になったとしても幸せになれるとは限りませんから」
そこまで言うとようやく劉尚宮は微笑んでみせた。
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