花と蝶
ようやく劉尚宮の表情に色がついた。正嬪はそう思った。
「劉尚宮の言う通りね。こなたは正一品の嬪だけれど幸せなんて感じたことないものね」
「媽媽ですら、そう思うのですね。卑しい私めには承恩尚宮になれただけでも光栄なのです…誠仁君を産めたそれだけで良いのですから」
劉尚宮の表情が輝く。色が徐々にだが色彩を増してきた。儚げではあるが、そこに強さを感じる。
「あなたは誠仁君がいれば幸せなのね」
「それだけが生き甲斐ですから」
そう断言した劉尚宮には迷いがなかった。正嬪にはそれが羨ましかった。
自分は迷ってばかりである。郡夫人であったころよりも迷っている。いつも、光城君が引き止める。まるで楔のように。
「媽媽は先ほど、幸せを感じないとおっしゃいました。すべてを持っている方が何故です?」
「こなたは何も持ってやしない。すべて与えられたもの。チョゴリもピニョもね…人生すら与えられた」
正嬪として与えられた人生を生きるだけしかない。そう思わなければ辛かった。劉尚宮はそれを聞いて黙って正嬪を見つめた。
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