あ、あ、あ愛してる「君に伝えたい思いをこめて」
まるで何年もカルテットでいたような演奏だ。

気持ち良くなり、気づくと演奏しながら歌っていた。

何よりもエマが笑顔でピアノを弾いている、それが嬉しかった。

ちゃんと笑えるじゃないか、ちゃんと演奏できるじゃないかと。

「和音!」

エマは曲が終わるが早いか、小走りで俺に抱きついてきた。

「ちょっ……えエマ」

予期していなかったエマの行動。

俺はただ、よろめき倒れないよう足を踏ん張るのが精一杯だった。

「和音。エマ、スゲーよ。初見で新曲、弾きこなしてんだぜ」

「さすが天才デュオのエマだよな」

エマの抱きついた腕にグッと力がこもった。

「ich bin ich Kein Duo Emma.」

ポツリとこぼした声が震えていた。
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