月が綺麗ですね
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一週間ほど徹さんは休みをとり、出勤して来たのは翌月曜日だった。副社長がこんなに休暇を取るのは初めてだと飯塚さんが言っていた。

その間に何度も徹さんから連絡があったけれど、私はそれをあえて無視した。それはささやかな抵抗。

どんなに彼を好きだとしても、二股をかけられていた女にだってプライドはある。
たとえ泣き濡れた夜を重ねてきたとしても、顔を見ると怒りさえ感じることだって。

好きと嫌いの感情が入り乱れて、今の私の精神状態はぐちゃぐちゃだ。

それでも社会人である以上、それを仕事に持ち込むわけにはいかない。


「おはようございます」

久しぶりに見る彼が少し痩せたように見えるのは恐らく風邪のせいだろう。


出勤してきた彼に私は頭を下げて無言で掃除を済ませる。


「進藤、少し話をしたいんだが」

「お仕事のお話でしょうか?」

「いや...」

「ではこれで失礼いたします」


頭を下げて退室しようとする私の腕を彼がつかんだ。


「待てって!」


その時、ドアをノックする音が聞こえて、「失礼致します」飯塚さんが入って来た。

とっさに彼は私の腕を離すと、クルリを背を向けたのだった。
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