シンさんは愛妻家
その日の夜中。

「…先生」

と呼ぶ声に目を開けると、
ベッドの横にイブキが立っている。

「…どうした?」

と横になったままで聞いてみる。

イブキは夕食を食べる頃から無口になり、
何度も僕に何か言おうとしては
黙りこんでいた。

「先生、
…抱いてください…」

と小さな震える声で言う。

ずっと

そんな予感がしてた。

「部屋に戻りなさい。
…僕は子どもは相手にしない」

と出来るだけそっけない声を出しておく。

「…分かってます。
ここにいる間だけでいいの」

「女子力を上げて出直せ」

と僕は寝返りを打って後ろを向く。

「…先生」

「…」

「先生!」

「…」

「他の人じゃダメなの。
先生がいい。
…好きじゃなくていいから
恋人になりたい」

「…」

イブキはヒクヒクと声を震わせる。

「…先生が好き。
大好き。
一緒にいたい。
私が嫌い?
…ねえ、…
黙ってるの狡いよ。
『おまえなんか嫌いって』
…ちゃんと言ってよ」

…嫌いなわけないだろ。
真っ直ぐ見上げてくる瞳を…
嬉しそうに僕の隣を歩く君を
大好きと全身で伝えてくる君を…

嫌い
なんて

言えるわけがない。
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