拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 私は彼にリードされるように、一歩遅れて彼の斜め横を歩く。

 「もうすぐ曲がり角に着いちゃう」

 「うん?いいんじゃない?」

 大通りの曲がり角を曲がると会社までは直線距離。私達の会社の社員が大勢歩いている。

 彼と私が恋人同士で、一緒に暮らしていることは内緒。

 社内一モテる彼の彼女が私だと知れたら、一躍社内中の女子社員の羨望と嫉妬を浴びることになる。

 小心者の私は、彼に私達が付き合っているということは内緒にして欲しいと、お願いしていた。

 「俺達が付き合ってること、本当は秘密にしたくないんだけど?俺だって心配なんだよ沙綾に他の男が近づくの。最初に言っただろう?俺以外の男に沙綾が抱きしめられたり、キスされたりするの嫌だって......」

 さらに彼は、私から目を逸らすと斜め下を見て、まるで独り言のように言った。

 「俺だけのお姫様でいて欲しい。って、思う」

 そんなセリフ。今時メロドラマでも言わないよ......っ!

 私は、すっっごく恥ずかしくて。それから、とても嬉しかった ーー。

 すっかり頬が赤く染まった私を見て彼は、

 「そんなにかわいい顔されたら。またキスしたくなる......、早く定時にならないかな」

 会社の正面入り口まで着くと私達は毎日。人目を忍んで、あまり長くならないように二言三言会話をしてから、別々のフロアに向かう。

 「昼休みLINEする」
 
 いつも私にそう言ってから、彼は自分の課に向かう。

 「うん。分かった」

 彼の小さくなっていく後姿を、私はいつも就業時刻ギリギリまで見つめる。

 やっぱり彼は、かっこいい。

 さっき彼は私に、俺だけのお姫様でいて欲しいって言ってくれたけど、それは私のセリフでもある。

 ずっと、私の王子様でいて......。

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