拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 どうして彼は初対面の時から私に優しくしてくれたんだろう?

 もしかして、私に一目惚れした??

 ......それはない。

 じゃあなんで?まるで私を昔から知っていたような.....。

 『戸川 優斗』

 彼は10歳で亡くなった私の初恋の男(ひと)と同じ名前 ーー。

 優斗君が生きていたら、どんな男性に成長していたんだろう??

 どんな声で?身長は?

 それから、私と優斗君の関係はどうなっていたんだろう?

 .......そっか、やっぱり。今の恋人の優斗に未だにこの身を委ねられないのは結局、”初恋の優斗君”を引きずっているからだ。

 それを、優斗はきっと分かってる。

 だって、彼はさっきも私が思ってることを当ててたし......。

 「考え事?」

 「え......っ」

 まるで本当に優斗は私の心を読んでいるかのよう.......。

 まぁ、私がもともと。顔にも態度にも出やすいタイプだからだけど。

 「手、止まってる。」
 
 「あ、うん......。どうして優斗は私を好きになってくれたの?」

 「沙綾が、俺のお姫様だからだよ」

 私は、照れ隠しに「もう何言ってんのっ!?からかわないでっ、」と言おうとしたが、優斗を見たらすごく真剣な顔をしていて言葉を失ってしまった。そして、そのことをもっと追求したくなった ーー。

 「どんなところがお姫様?」

 「”全部”っていうと、嘘っぽく聞こえるかもしれないけど......、うん。”全部”」

 彼は自分自身に確かめるように、私から視線を外して重みのある声で言った。

 「.......ありがとう。嬉しい」

 私が考えていた以上の、彼の真摯な反応に温度差を感じて、それ以上聞くことができなかった......。


 ーー Pi Pi Pi ....... Pi Pi .......

 彼と私の間に流れる沈黙を破ったのは、彼のスマホの着信音だった。

 「はい、もしもし。戸川です。お疲れ様です」

 どうやら、一課の課長からのようだ。

 彼は私に手振りで合図をして、電話をしながら席を立った。

 一人になった私は頬杖をつき、再び考えを巡らせようと何気なく窓の外に目をやった。

 すると窓に映る一人の男性の姿が。その男性は私の席へ近づいてきている。

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