拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 「沙綾ちゃん、一人?ここ座っても良い??」

 窓に映っていた男性。同じ課の3歳年上の先輩、浦田さんだった。

 彼は、以前。一課に異動した優斗の送別会で私にしつこく言い寄ってきた人だ。その時は優斗が間に入って助けてくれたけど、今は会社とはいえ二人きり。一体、何を言われるのかと思い私は身構えた ーー。

 「浦田さん......。仕事の話なら、オフィスで聞かせてください」

 「いや、仕事の話じゃないよ。その......、こないだの飲み会ではごめんね。ずっと沙綾ちゃんに、きちんと謝らなきゃって思ってたんだけど、なかなか機会がなくて......。沙綾ちゃん、最近。戸川と飯食うようになったじゃん。だから......、」

 浦田さんは普段、肩で風を切るような雰囲気で。仕事はデキるけど、後輩には高圧的で強引な印象。あの飲み会での出来事もあり、私はとても苦手だった。

 まさかその浦田さんが、後輩の中でも一番新人の私に。わざわざ、しかも2ヶ月以上前のお酒の席での事を謝ってくるなんて一体どういう風の吹き回し??

 「沙綾ちゃん。もしかして、本当に戸川と付き合ってるの?」

 「えっと......。戸川君とは......」

 こういう時、感情が表に出やすい自分は心底ダサいと思う。

 私は、浦田さんのストレートな追及に否定も肯定もできずに、まごついていた。

 「こないだのお詫びも兼ねて、美味いもの奢るからさ。一回、オレとの食事に付き合ってよっ!」

 浦田さんは口ごもる私の隙をついて食事に誘ってきた。その口調は、どこか卑しい ーー。

 この男(ひと)は、きっと。手当たりしだい女子社員に声をかけているに違いない。

 あの飲み会での記憶が再び蘇り、私は言いようのない憎悪が込み上げた。

 「浦田さん。俺の彼女をナンパするのは止めてください」

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