拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 確かに優斗は仕事がデキる。

 でも、それは。あくまでも新入社員の間での事で......。

 彼が”勝てる”と言ったのは、私を安心させるために口をついて出た言葉だと思った。

 私は彼の事を信じていないのだろうか??

 ううん。私は優斗を信じてる。

 だからこそ。嘘と同じように、気休めも言えないのだ。

 「もし、負けたらどうするの......??」

 またしても、私は彼に辛辣な言葉を放ってしまった.....。

 仮に私が嘘の気休めを言っても。優斗には全て、お見通しだ。

 それなら正直に、自分の気持ちを彼に言おうと思った ーー。

 「沙綾の事が好きだから勝てる」
 
 優斗は私の気持ちを見抜いてしまうのに。私は優斗の、この言葉が果たして真意なのかどうか分からない。

 でも、私は彼が嘘をつくとは思えないし、彼が、わざわざ負けるような勝負を自分から挑むような愚かな人ではない事は、十分わかっている。

 そもそも、今回の事は。私の至らなさが原因で、優斗は売られた喧嘩を仕方なく買ったまで。

 「優斗......。私のせいで、ごめんなさい......」

 「沙綾、何言ってるの?今回の事は。何かと後輩にウルサイ、浦田さんを黙らせる良い機会だよ。沙綾のせいじゃないよ」

 優斗は自責の念に駆られる私の気持ちを軽くしようと、私と浦田さんの間に起こったことを切り離して言った。

 それにしても。優斗が仕事で浦田さんより業績を上げても、浦田さんが潔く引き下がるとは思えない。

 「もし、優斗が勝っても浦田さんが逆恨みして、しつこくしてきたら......?」
 
 私は性懲りも無く、彼に不測の事態が起こった場合どうするかを聞いた。
 
 すると、優斗は。さらりと、こう言った。
  
 「殴る」
 
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