拘束時間   〜 追憶の絆 〜
 臨時の駐車場に車をとめて外に出ると、風に乗って海の匂いが運ばれてきた。
 
 優斗は、大きく背伸びをすると新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んで深呼吸をした。

 私は潮風に吹かれながら、海原を仰ぎ見る彼の立ち姿を胸に焼き付けた。

 やっぱり、優斗は背が高いなぁ......。
 
 風に吹かれた白いシャツが彼の身体にぴったりと張り付いて、均整のとれたボディラインを浮き彫りにしている。

 彼に抱きしめられた時の安心感を思い出す......。

 半袖から剥き出した長い腕は細身だけど骨が太くて筋肉の筋が、しなやかに縦に流れている。

 いつも私を包み込んで守ってくれている腕だ.....。

 こんなに素敵な男(ひと)は、世界中どこを探しても彼しかいない。
 
 だから。昔のことは、もう忘れなきゃ。

 なにより優斗は私を愛してくれている......。

 優斗だけを私の胸に棲まわせよう。

 そうすれば彼に全てを捧げられる。

 彼に、これ以上過酷な思いをさせずに済む。

 それでも。満天の日差しを浴びて輝く優斗の髪にかかった天使の輪が私に、どうしても、ある男(ひと)のことを思い出させる。

 優斗じゃなくて”優斗君”

 私の初恋の男(ひと) ーー。

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